コラム 幻の国土

 わが国2千数百年の人口と土地の足跡を眺めてみたとき、現在の高密度社会が大変な資力と労働でつくられた土地のうえではじめて維持されてきたことが明らかになる。しかも、我々日本人は毎年3,000万tを超える穀物を輸入しており、これら農産物の国外生産を行っている土地をカウントすれば、1億2,200万人を養う土地は莫大な広さに達している。同じ農産物を日本列島でつくるとすればいくらの面積が必要かを計算すると日本列島プラスその2.5倍くらいの幻の国土を海外で使っていることになる。経済成長とともに自給率は低下してきたから、幻の国土はしだいに拡大してきたのである。


アメリカ、ニューオーリンズのミシシッピ川河ロ部にある全農のグレィンエレベーター


 世界の穀物生産は、1970年代の不足から一転して、最近では過剰傾向が続いている。こうした状況と円高を背景に、小麦やトウモロコシ・大豆だけでなく米までも、外国にまかせておけという声が高くなっている。昭和47(1972)年、アメリカが大豆の輸出を禁止したとき、わが国の豆腐の値段が2倍にはね上がった記憶も薄らぎつつある。


 しかし、近未来には、世界の人口増加が続けばその人口を養う食糧をつくる基盤である土地の制約から、人類を危機に追い込むであろうことは、さまざまな予測や歴史の経験からほほ確実であろう。世界の耕地は約15億haあり、同じ面積が未開発のまま残されているとされている。残された熱帯林や草原を開発するには、巨大な投資と、環境破壊の防止が必要であり、これを数十年で行うことは不可能に近い。
 とすれば、わが国がいつまでも「幻の国土」に依存することはきわめて困難であろう。2千数百年の蓄積をもったわが国本来の国土を、こうした観点からもう一度見直してみることが必要なのではあるまいか。