水土の礎 キッズページ サイトマップ ご意見・お問い合せ
水土の歴史年表 地域の礎 水土の成り立ち 大地への刻印 国土を創造した人々 礎の歴史的展開 近代日本の礎 水土の巧
地域の礎
カテゴリトップへ
中四国エリア
戦後の国営事業









 

 


1. はじめに

 国営横田開拓地区の受益地である横田町は、島根県の東南端に位置し、中国山脈の北西面の急峻な山岳地帯とその山麓及び一級河川斐伊川源流部に拓けた内陸盆地で、平地に乏しく、町の大半が林野(約85%)であって、農地はわずか8%の山村地帯である。

事業完成記念碑「豊潤なる台地碑」

 産業は農林業が主体で、水田を基幹とした畜産と林業であり、1戸当りの耕作面積は90aと零細であった。地域の自然的、社会的条件から他産業が飛躍的に伸びる可能性は小さく、基幹産業としての農業が重要な位置を占めることに変りはなかった。

 このような状況を背景として、新規農地の開発を行うことにより、農業経営規模の拡大と、農業生産の選 択的拡大を図るとともに、自立安定 農家の育成と、地域経済の発展を目的として、横田町1町において国営農地開発事業を実施し平成7年度に事業が完了した。

 横田地区の概要と、現在の状況等について紹介する。

 ※(旧横田町は隣接する仁多町との合併により、現在は奥出雲町となっている)

2. 地域の歴史、文化、自然

 横田地区は、神話や伝説が豊富なことで有名なところで、この地域は 「出雲の国」の斐伊川沿いの山地上流部にあたり、旧大原郡の大東町、加茂町、木次町(現雲南市)と旧仁多郡仁多町、横田町(現奥出雲町)あたりを総称して「奥出雲」と呼び、横田町はその最南端で、東は鳥取県、南は広島県に接した盆地である。この横田盆地には早くから人が住んでいた。縄文時代早期(7〜8千年前)の国竹遺跡、弥生時代と古墳時代のそれぞれの住居跡や遺跡、古墳等が数多く発見されており、この時代から山陰、山陽をつなぐ拠点として重要な役割を果たしていた所と考えられている。

ヤマタノオロチ退治(石見神楽)

 「古事記」や「日本書紀」に登場するヤマタノオロチ退治の神話は、横田町が舞台となっており、石見神楽による迫力ある舞で全国に知られている。なお、このヤマタノオロチは、斐伊川の荒れ狂う洪水を表しているという説が有力であり、古代出雲人の治水に懸けた情熱が伺える。

 またこの地では古来より、鉄穴流し (かんなながし)と呼ばれる手法で山の表面付近の砂鉄を洗い流して採取し、粘土づくりの炉の中で砂鉄を炭火で熱し、銑鉄に製錬する「たたら製鉄」が盛んに行われており、現在でも町内大呂の地にある「日刀保たたら」において、冬期間三日三晩不眠不休でたたら吹き製鉄を行い 日本刀の素材となる「玉鋼」を生産して いる。こうして出来た玉鋼は全国の刀匠へ配られ、現代の名刀に生まれ変わっている。

 地形は東南部が山陰、山陽の分水嶺である山岳地帯で、比婆道後帝釈国定公園地域に指定されており、船通山(1,143m)やスキー場の三井野原(730m)、 更には吾妻山(1,239m)や烏帽子山(1,225m)など風光明媚な中国山脈が連なり、豊かな自然に恵まれている。町内の標高は最低275m、最高1,240mで概ね300m〜800mの間に山林、耕地が介在している。なお受益地の標高は330m〜770mである。

3.国営事業の経緯・経過

 国営事業の端緒となったのは、昭和43年2月、県の広域農業開発構想として策定された、雲南地方三郡および能義郡奧部を含む奥出雲開発構想について、各町村とも前向きな関心を示していたが、横田町の場合はこの構想にいち早く反応して、他町村に先駆けて横田地区国営農地開発協議会を結成し、町独自の調査推進活動を行った。昭和43年8月奥出雲国営開拓パイロット構想がまとまり、翌44年3月国営開拓パイロット事業調査地区に指定され、基本計画の調査と全体実施設計に入る。島根県は同年4月木次(きすき)農林事務所の出先として、奥出雲開発調査事務所を設置した。一方、農林水産省は昭和49年4月24日付で、国営農地開発事業基本計画を決定し、昭和50年2月1日中国四国農政局横田開拓建設事業所を開設し、翌年5月地区面積853ha、農地造成面積649haをもって農地造成工事に着手した。こうした中、後継者難等社会情勢の変化から、第1回計画変更(平成元年3月)で地区面積640ha、造成面積430haに縮小され、更に第2回計画変更では最終的に地区面積590ha、造成面積375haとするとともに、新たに75haの水田への用水補給を追加して、総事業費30,200百万円、工期21年間をかけた事業は平成8年3月31日をもって完了した。なお、造成団地数は53団地、受益農家戸数は584戸である。

4.事業の概要

 (1)計画の要旨

   この事業は、農地の開発とそこへ送水するための水利施設を造成することにより、農業経営規模の拡大と農業生産の選択的拡大を図るとともに、自立安定農家の育成と、地域経済の発展を目的としている。
   本事業による農地の開発は375haであり、併せて造成地に隣接する水田75haに用水補給を行うものである。これらの水源としては、同町八川に坂根ダムを建設し、かんがい期にはダムより最大約0.275m/sを取水して延長約78kmの幹支線水路を新設し、畑地かんがい及び水田への用水補給を行う。なお高標高の団地(19ha)においては、用水限を渓流等に求め、畑地かんがいを行う。また、営農に対応する道路網及び農地保全のための防災施設を設置する。

(2)主要工事計画

@坂根ダム

       ダム及び貯水池諸元

一  般

位置
河川名
基礎地盤

横田町大字八川坂根地先 
斐伊川水系室原川
石英安石岩類

    貯 水 池

流域面積
満水面積
送貯水容量
有効貯水容量
堆砂量
常時満水位
計画堆砂位
利用水深

3.88km
50,400m
790,000m
670,000m
120,000m
F.W.L 629.80m
D.W.L 608.60m
21.20m

堤    体

型式
堤高
堤頂長
堤頂幅
ダム天端標高
最低床堀標高
堤体積
上流側こう配
下流側こう配

重力式コンクリートダム
50.60m
157.00m
3.50m
EL 633.60m
EL 583.00m
83,900m
1:0.07
1:0.77

 

洪 水 吐

型式
設計洪水量
設計洪水位
サーチャージ水位
越流水深
越流堤長
減勢工設計洪水量
減勢工

直接越流型シュート式
157m/s
H.W.L 631.80m
S.W.J 631.55m
2.00m
14.45×2m
129m/s
副ダム型

取 水 設 備 

型式

 

最大取水量

取水位

放流口

多孔式取水塔
φ1000×4門
0.345m/s
(かんがい0.275m/s
義務0.07m/s
F.W.L 629.80m〜
L.W.L 608.60m
φ400・100JFG各1門

管理設備

管理塔

警報局

RC構造1階建155m

2局(サイレン・スピーカー付)

 

                坂根ダム

A農用地造成工

    開墾作業

 

   農地保全
    土砂扞止林
     幅:5〜10m 面積:78ha 樹種:針葉樹、広葉樹 (自然林)

    排水路
     園長:133km 流量1.07m/s (鉄筋コンクリートU型)

   浸食防止工
     沈砂池156ヶ所
     盛土部 幅:2〜3m×長:3〜6m×深:1m(ゴムシート張り)
     切土部        同上       (素堀り)

B用水施設

 用水路  幹線水路工;  4路線   L=13.2km DCIPφ250〜φ450
      支線水路工:37路線 L=64.6km DCIP、VPφ75〜φ350
        計   41路線 L=77.8km
      地区内水路:    L=71.3km DCIP、VP、VUφ75〜φ150
          合計         L=149.1km

 揚水機場        4ヶ所
 加圧期場      13ヶ所
 ファームポンド 3ヶ所
    統合1号FP V=1,900m、D=18.6m、H=7.0m
    統合2号FP V=1,439m、D=19.5m、H=5.0m
    統合3号FP V=1,417m、D=19.0m、H=5.0m

C道路

 幹線道路: 1路線(野呂幹線道路)
        幅員5.5m(有効幅員4.5m)、延長4.1km、アスファルト舗装
 支線道路: 62路線
        幅員4.0〜3.0m(有効幅員3.0〜2.5m)、全延長33.6km アスファルト
        及び砂利舗装

5.営農推進の状況

 (1)経過

昭和51年度事業着工以来造成された団地では、「露地野菜」「ぶどう」「飼料作物」を中心に営農されてきたが、坂根ダムの完成により、農業用水が全団地へ供給可能となったこともあり、「施設野菜」「花き」等が栽培されるようになった。

土づくりのため、平成元年度に設立された社団法人横田町農業公社(現(社)奥出雲町農業公社)による土壌改良(熟畑化)が進められてきたが、その後「横田町土づくり推進事業」(平成4年度:町単事業)、「国営開発地営農定着促進事業」(平成6〜8年度:県単事業)、「造成農地就農条件整備事業」(平成9〜11年度)により堆肥等の投入による熟畑化対策、生産物販売対策など営農確率に向けた取組が行われてきた。また、担い手育成については、6年度に(社)横田町農業公社が「農業者インターン制度」を創設した。これは町内外の就農希望者を対象に、2ヶ年居内で栽培技術と経営管理技術を習得させる研修制度で、平成9年から11年にかけて新規就農者技術習得施設(研修棟・宿泊棟・バイオ施設)を整備して多くの研修生を受け入れてきた。このうち平成10年には、研修終了者が横田1団地を生産拠点に「有限会社さあやファーム」を設立し苗もの生産や作業受託を基幹に営農を展開している。

(株)アグリベストのトマトハウス(横田1団地)

また、開発営農の推進を図るため、「国営農地開発事業完了地区営農ネットワーク事業(農村振興支援総合対策事業:国庫)」を導入し、開発地の利用ビジョンの策定と農地の利用促進に向けた和牛簡易放牧の取組が開始された。以降、平成19 年度まで国や県の補助事業を積極的に 活用し、そばの在来品種である「横田小 そば」の生産拡大など多面的な営農確率 に向けた支援が行われた。

しかし、当地でもご多分にもれず、農家の担い手不足、高齢化が加速する中、開発農地の活用が充分でないほ場が散見されるようになってきた。このため町では、平成16年から地元企業の農業参入を促進してきた。平成23年度末現在で8社の県内外企業が農業参入し、53haの農地が集積されている。また、農業生産法人への集積も併せて進められており(現在7法人)、企業参入を含めた法人による耕作面積は全体の約24%にのぼっている。

町ではこれらの取組を支援するため、平成20年度から21年度に「段階的基盤整備等実証調査事業」(国庫補助)を導入し、営農ビジョンや参入企業などの意向を把握して、基盤整備の導入における諸課題を分析・検討し、段階的整備計画を策定した。これを受け「農山漁村活性化支援プロジェクト交付金」(国庫補助)を平成20〜23年度で事業を実施して、計画的な除礫、深耕、排水改良、堆肥施用等の改良・再整備を進めている。

 (2)作物の現在の作付け状況

「国営農地開発における作物作付状況調査結果」によると、近年の作付状況は次のとおりである。
@平成23年度の調査結果によると、栽培面積5ha以上の品目は、「飼料作物」85ha、「ソバ」50ha、「大豆」7ha、「キャベツ」6haの4品目である。
Aその他の作物では「さつまいも」が参入企業の取組で約2ha栽培され、このほか最近健康食品として注目を集めている「エゴマ」や、ソバの薬味として人気のある「辛味大根」等の作付けが増大しつつある。特にエゴマは、町の特産品として定着させるべく、生産から加工品(エゴマ油、菓子等)の販売まで一貫して 取り組むなど、農業の6次産業化を視野に入れた事業が展開されている。

6.おわりに

 横田地区は、後継者不足や大消費地から遠いといったハンデを背負い、一時期 営農意欲減退による離農が相次ぎ、未耕作地が年々増加しつつあったが、町当局や 土地改良区の「農業による町興し」の方針は一貫して変わらず、国、県と一体とな りハード、ソフト両面の最適事業を選択導入し営農条件の整備を行い、企業への農 業参入を積極的に促す等の努力の結果、6年前76haであった耕作放棄地(自主再生 困難農地)が現在22haまで減少し、取組の成果が着実に現れつつある。
 事業完了から17年が経過し、施設の老朽化も見られるが、県営ストマネ事業等に より順次、更新、長寿命化対策を図っていく方針である。
 なお余談ではあるが、一昨年から農水省職員OBで組織するNPO法人「美しい田園 21」の会員7〜8名が中心となって町、地元農家の指導、協力を受けながら、耕作放 棄地約50aを借り受け、「奥出雲おろちシンコウ支援活動」と銘打ち、ソバや エゴマの栽培に取り組んでいる。ほとんど農業経験ゼロの者の集まりであり、見よ う見まねの「ままごと」みたいな営農であるが、播種〜収穫作業の大半が夏に集中 するため、肉体的にこたえるが、汗水流して「深耕」し、地域の人との「親交」を 図り、ささやかながら奥出雲町農業「振興」の一助になることを願い、今年も挑戦 しようと思っている。

引用・参考文献等
 ・横田開拓事業誌 平成8年3月 横田開拓建設事業所
 ・横田地区の概要 島根県
 ・奥出雲町役場、土地改良区聞き取り