明治という名の壮挙 ― 疏通千里・利澤萬世 命を育む明治用水 [Meiji-Yousui  Rural Resources for Future Generations]

【第七章】疏通千里・利澤萬世

守り継ぐ想い

【明治用水開渠記念碑(安城市浜屋町)】
(右)疏通千里利澤萬世 内務卿 松方正義
(左)聖朝嘉精良民義峯 大蔵卿 佐野常民
と刻まれている。

明治用水は、民間人によって、計画・開削された伝統を引き継ぎ、開削当初から村々による総代を選出して、管理に当たってきた。「土功会」「普通水利組合」そして現在の「土地改良区」と名称は変わっても、水管理の地元組織は、用水の管理という責務を果たし続けている。
しかし、農地や農業人口が著しく減少した現在、土地改良区が従前のとおりの役割を果たしていくのは、並大抵のことではない。土地改良区の活動資金は、受益面積に応じた農家の賦課金に依存しているため、農地の減少が続く限り、財政的な負担は増え続けていく。また、例え全体の農地面積が減少しようとも土地改良区の果たす役割は減るわけではない。水路だけを例にとっても、土地改良区の管理は約400kmにも及び、農家以外の住民の協力が必要であるのは明らかだろう。

明治用水の多面的機能

かつての明治用水本流(明治川神社付近)

かつて人々が親しんだ水路は、パイプライン化によって、地下へともぐり、目には見えぬ流れとなった。しかし、水の恩恵への感謝の気持ちを忘れぬため、歴史的な景観を守り継ぐため、土地改良区では、往時の面影を残した環境整備に取り組んでいる。
水路用地の上部は、大部分が自転車道・緑道・歩道・通学道路など有効に活用されており、自転車道や緑道には、せせらぎと呼ばれる水辺が設けられている。各所には、地下に張り巡らされた管水路網を利用した親水公園が整備され、地域の景観に潤いをもたらしている。
明治用水が地域に果たす役割はこれだけではない。火災時には、消火栓・防火水槽に代わる防火水源として利用されており、現在、明治用水には、154か所に防火水利施設が設けられている。また、明治用水の水によって潤される田畑は、洪水の防止、地下水のかん養、気候の緩和、生態系の保全など、様々な多面的機能を発揮しており、地域にとって必要不可欠な存在となっている。
明治用水土地改良区では、平成22年度の通水130周年を機に、地域活動の拠点施設である「水のかんきょう学習館」を建設する。今後も、農業と農業施設が発揮する多面的機能や、安全・安心な食料生産を支える農地と水の重要さを広く呼びかけていく。

「神」となった人々

水――その大切さは、今さら述べるまでもないだろう。飲み、煮炊きし、洗い、私たちの生活は、水なしでは成り立たない。また、農業、漁業、水運、発電、工業と、社会とは実に水資源の利用に尽きるともいえる。この地の先人たちは、あらゆる辛苦と闘い、明治用水という一本の道を通した。かけがえのない水の道である。
しかし、時代は変わり、「農」の営みは、時として遠くの出来事ととらえられるようになってしまった。水の汚濁にも鈍感になり、急き立てられるように過ぎてゆく日々に、その大切さすら忘れかけてしまいがちである。だが、1日たりとも、水がなくて平気な人間はいない。ものを食べぬ人もない。
明治用水が完成したとき、通水に立ち会った農民たちは涙を流して感謝したという。都築弥厚、岡本兵松、伊豫田与八郎ら開削功労者は、「神」として明治川神社に祀られている。また、この地域には、約40か所もの功労者碑や用水開削碑が残されている。
我々は、いうまでもなく、歴史の恩恵の上に生きている。地域にとって、真の資産とは何であろうか。
願わくは、この地の先人たちの功績と恩恵に、今一度、想いを馳せていただきたい。

明治川神社(安城市東栄町)

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