鳥取県は、連なる山々や透き通る日本海、美しくうつろう鳥取砂丘など、心やす らぐ豊かな自然に恵まれている。
その代表には、山陰海岸国立公園・大山隠岐国立 公園、氷ノ山後山那岐山国定公園、三朝東郷湖県立自然公園、奥日野県立自然公園 と名を連ねる。その景観は人々に深い感動を与えている。
輝く緑と清流に心洗われ 山々を紅で覆う紅葉に触れ、白銀の世界に身を委ね、素晴らしい景色が堪能できる 名称の数々は、季節ごとに新しい表情で鳥取県を彩る。
本事業地区は鳥取県中西部に位置し、中国地方の最高峰「大山」の裾野に広がる 畑作を中心とする県内でも有数の農業地帯である。
しかし、地区内には大きな河川 がなく、特に畑作においては天水に頼らざるを得ず、しばしば干ばつの被害を受け てきた。
鳥取県の農業は、米・野菜・果実・畜産がバランスよく営まれ、全国有数の農業 県として、新鮮で良質な農産物を各地へ供給してきた。
特に本県特産の二十世紀梨 は、先人達の努力によって日本一の産地が形成され、海外にも輸出されている。
また 海岸線に広がる砂丘地帯では、ぶどう、らッきょう、ながいもなどが栽培され、大山山麓の肥沃な黒ぼく地帯では、
スイカ、白ネギ、ブロッコリー、などの野菜の他、芝も盛ん に栽培され、地域の特性を生かした農業が行われてきた。
当地域周辺はかつて律令制下の因幡国、伯耆国であり、くにびき伝説や因幡の白うさぎで知られる神々の国でもある。
この古い歴史を持つ伯耆の国の東部に広がる大山東麓は、大山の火山活動によって堆積した「黒ぼく」火山灰の台地と、
その後の長い侵食により刻まれた放射状の谷から形成されている。
これらの台地は平均標高100m程度で畑地と果樹園 として利用され、前述のスイカ、梨等が生産されている。
一方、谷部は平均標高50m程度で水田利用されている。
本地域は、年間平均降水日数は217日、年間平均降水量は2,574mmと比較的降水量にも 恵まれているが、
降水量を月別分布でみると台風時の雨または冬季の降雪によるものが多く水稲および畑作物が最も水を多く必要とする4月、5月、8月が比較的少ない。
さらに 7月から8月にかけて干天が続くこともしばしばある。
平成6年の大干ばつでは、本事業で完成した西高尾ダムの水により旧大栄町の主要作物 であるスイカが、
高生産・高収益をもたらした話は後世に語り継がれている。
このような状況から、降水の豊富な時期の河川水を有効に利用する方策として本事業が 計画・実施されたものである。
1. 目的
本地区は、鳥取県の中部に位置し、大山北東山麓から放射状に延びる台地上に分布する畑地と台地の間の低位部に広がる
水田からなる東伯郡大栄町、東伯町、赤碕町にまたがる 畑作を中心とした面積3,000haの農業地域である。
本地域の農業はスイカ、芝、梨等の作物と水稲を組み合わせた複合経営が主に営まれ、 特にスイカ、梨は本地区が県内でも有数の産地となっている。
地域の用水は、畑地にあっては台地上に位置することから河川からの取水・送水難しく 天水への依存を余議なくされており、
水田にあっては流域が狭く河床勾配が急峻な加勢蛇川、勝田川などの小河川に依存していることから、
本地区においては、農業用水の安定的な確保が困難な状況となっており、地域農業発展の支障となっていた。
このため、本事業では、由良川支流西高尾川に西高尾ダム、洗川支流倉坂川に小田股ダム、勝田川に船上山ダムを築造することにより新たな農業用水を確保するとともに、
用水路等の基幹施設の整備及び関連事業による圃場整備、末端用水路の整備等を行うことにより新規に畑地かんがい用水を確保するとともに、
水田への用水の安定供給を行い、農業生産性の向上と農業経営の合理化と安定化を図るものである。
とりわけて、本地区の用水計画で特筆できることは、大栄町に西高尾ダム、東伯町に小田股ダム、赤碕町に船上山ダムと1町1ダム計画で、
町を跨いで相互に用水を補給するシステムである。
西高尾ダムに用水不足を来たした場合、小田股ダムから送水して補給、小田股ダムに 用水不足を来たした場合には、
勝田川支流矢筈川に築造した大父頭首工から取水し、大父 導水路により小田股ダムに送水する。
大父頭首工から取水するための保証水源として、船 上山ダムを築造し、勝田川の維持用水、補給水を確保する計画である。
1)基本理念「自然と共生する田園環境の創造」
本地区は鳥取県のほぼ中央に位置し、主峰「大山」の裾野に発達した高原地帯から日本海に向かって扇状に広がっている。
農業地域で環境的には、南側山岳地帯は「大山隠岐国立公園」の一部に属しており、すばらしい自然環境に恵まれた地域である。
また、歴史的にも貴重な文化遺産が数多く存在する地域であり、これらの遺産を継承しながら事業実施につとめた。
農業農村整備事業においては、地域における環境の特性は何か。対象となる施設 が地域の生態系にとってどのような役割を果たしているか。
事業所では、「環境と の調和に配慮した事業実施のための調査計画・設計の手引き」を地域の特性に応じ てより弾力的に活用し、
自然と共生する田園環境の創造に資する事業・有効な環境 配慮対策の実施に心がけ、事業が地域に定着するように取り組んだ。
2)職員全員で考える「環境配慮」
事業所では、事業実施にあたり様々な観点から環境保全に対する行動計画を実施 し、生態系配慮の機能維持に対する意識の底上げを図るため、
田んぼの生き物調査、 生態系保全に関する学習会、研修参加に積極的に取り組んできた。
3)環境配慮5原則
回避・最小化・修正・影響の軽減/除去・代償
4)環境を変えない努力
土地改良法の改正に伴い、地域の特性を十分に把握したうえで、「完全に保全すべき エリア」「整備しながらも出来る限り従前の環境を保つエリア」「施設整備を主体とし て考えるエリア」を定め
それぞれの考え方に合致した整備手法を検討・施工する事と した。その中でも「整備しながら出来る限り従前の環境を保つ」にあたっては、開水 路の護岸工法の工夫、
設備の設置場所を環境に影響がない場所へ移動したり、移動さ せない場合でも構造・配色等で工夫し、極力影響が少ない状態にする手法を採用した。
当事業では、ダム、頭首工の整備について経済面、環境面など様々な観点から検討を行い、その過程では施設近隣及び上流部における史跡希少動植物の存在当について調査を実施、
船上山ダムが「大山隠岐国立公園」内に位置することから、環境省との協議をおこない、あらゆる面で最良の条件を選択して施設整備を実施した。
① 周辺景観との調和=グリーンベルトの連続性の維持=船上山ダム堤体下流法面下半分の緑化
② 矢下頭首工・大父頭首工にはアユ、ウナギの往来に対処する魚道の設置。
③ 各種工事の施工に際し、近隣環境への悪影響を最小限度に留める対策。
④ 現場発生材の建設汚泥の再処理・再利用、環境負荷への軽減対策。
5)目標達成のためのアクション
① 環境配慮工種にかんしては、調査・設計・工事の各段階での土地改良技術事務所との技術情報交換・指導。
② 適切な生物的情報やモニタリングなどの環境技術を習得するため、研修への積極的参加。
③ 必要に応じて管内の環境・生態系等の状況把握をするための調査を実施 し、より事業形態、地域の実情に即した環境配慮への努力。
④ 町役場、土地改良区、農協等が実施する取り組みについては、地域貢献の考え方から、可能な限り組織として積極的関与。
⑤ 事業所管内の公共機関が実施する農業関連イベントでは、「環境に配慮した 整備」について後方活動の実施。
東伯地区全景写真