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1. はじめに
2. 吉井川の概要
3.吉井川水系の水利用
4.農業用水の概況
5.吉井川農業水利事業概要
6.造成された施設の現状
7.おわりに

icon 1. はじめに



  吉井川下流地域は、岡山県の東部に位置し、県三大河川の一つである吉井川の下流域を中心とした、岡山市、備前市、瀬戸町、 熊山町、和気町、牛窓町、邑久町及び長船町の2市6町にまたがる水田約5700haと周辺丘陵地展開する畑地約1200haの地域である。 この地域の用水源である吉井川は流量の豊渇の差が著しく、渇水期には、用水不足、豪雨時には排水不良をきたしていた。
 また、畑作地帯においては、ため池等の水源も乏しく、灌漑施設が不十分で天水に頼った農業が営まれていたところである。 このため主産地である露地ぶどうは旱天が続くと収穫皆無となることもあり、野菜産地では、播種期あるいは旱魃時には人手による水運びの重労働も余儀なくされてきました。 この下流地域に展開する水田とその周辺畑の受益地用水の安定確保と合理的用水配分により地域農業の発展を図るため、 吉井川下流域の実情を踏まえた地元関係者の土地改良に対する強い熱意と要請に基づき吉井川農業水利事業が昭和63年度に事業が完了した、 吉井川農業水利事業の概要と、現在の状況について紹介する。
*(なお、市町村合併により瀬戸町は岡山市、牛窓町・邑久町・長船町は瀬戸内市、熊山町は赤盤市となっている)

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位 置 図

icon 2. 吉井川の概要



 吉井川は、岡山県の東部を南流する河川で県下三大河川(吉井川・旭川・高梁川)の一つに数えられ古くから西の旭川に対して別名「東の大川」とも呼ばれる大河川です。
 河川の源流は北部の県境、中国山脈の各連峰に発しますが、その本流は苫田郡上斎原村の三国山(標高1252m)に発し途中で久米川、加茂川、吉野川、金剛川、小野田川等数多くの支流を合流し、 鴨越堰を経て最下流で左岸干田川・千町川を合流した後、児島湾に流入する河川で、その流路延長は133km、また全支流を合わせた総延長は701kmで、 その流域面積は2060km2に及びその内約7割が林野で山地を流下する部分が多くなっています。 なお、流量についての観測記録は少ないですが、矢田水位流量観測所の古い記録によると豊水量は68.3m3/s、渇水量14.24m3/sとなっていて豊渇の差が激しい河川です。 また過去の最大洪水量(佐伯町天瀬地点、建設省記録昭和20年)は6180m3/sで暴れ川の名に相応しい河川です。

icon 3.吉井川水系の水利用



 吉井川の下流部には上流から運ばれた土砂が堆積し広大な沖積平野が展開し、 数多くの用水施設(井堰頭首工・用水路)が設置され農業用水を供給しています。
 下流部の大沖積平野吉井川の鴨越堰(受益面積716ha)吉井堰(受益面積636ha)坂根堰(受益面積1820ha) 田原用水(受益面積484ha)干田川の大樋用水(受益面積215ha)尾張用水(受益面積155ha)千町川の神埼水門(受益面積609ha) 花尻用水(受益面積104ha)と非常に大規模な用水施設が築造されています。
 吉井川水系の水利用は主に農業用水が中心でしたが、下流部において工業集中、 人口集中などが発生し工業用水や都市用水の需要が増大したため河川水を農業・都市・工業間に有効に配分・利用しなければならなくなってきています。 それによって、従来の農業用水量を確保しつつ、さらに都市用水・工業用水に対応しようとしています。


icon 4.農業用水の概況



 藩政時代藩主は盛んに新田開発を奨励しました。県下でも吉井川、旭川、高梁川の三大河川の河口付近の瀬戸内海沿岸デルタ地帯を中心に広大な干拓が行われ、または畑地帯の水田化も進められました。
 これらの新田には農業用水が不可欠な要件ですが、岡山県南部の気象条件を見ると、 南部平野/年平均気温15度、年降雨量/1200mmであり、温暖な気候で稲作には最適な地帯でありながら降雨量が少ない瀬戸内海沿岸地帯は新田の開発と併行して 用水補給のための水利施設築造が行われてきました。これらの用水源は主として三大河川に依存することとなりますが、不足分を補給するため渓谷等の適地を求めて多数のため池も築造されました。
 しかし、用水供給可能限度(平年的用水量)一杯に開田が進められたこと、また開田が先行して水利施設建設が遅れがちとなり、 以上のようなことから渇水年の旱魃被害は甚大なものがあったようで元禄の昔より津田永忠らにより水利施設の増強が逐次図られてきました。 古くから新田用水確保のため取入堰や用水路、あるいは、ため池の築造改修等が盛んに行われた瀬戸内海沿岸地帯には数多くの水利施設が存在しています。 さらに、戦後の経済復興とそれに続く高度経済成長に伴い南部平野地帯そして人口増加に伴い都市工業用水の需要が高まり不足気味の農業用水の確保、 都市用水、工業用水の確保の必要性から上流部においてダムの築造や児島湾における淡水化事業が実施されてきました
*地域の文化遺跡として残る水利施設



icon 5.吉井川農業水利事業概要



 岡山県の3大河川の1つである吉井川の下流地域に位置する岡山県下でも主要な穀倉地帯である吉井川下流地域の農業が産業として自立し得る農業の確立を目指して、 各種施策が推進されてきた。しかし、吉井川流量は豊渇の差が大きく渇水期には用水不足、豪雨時には排水不良をきたしている。 吉井川下流の農業は近時他産業の急激な発展に押されて、裏作の減少、兼業農家の増加等低迷を続けている状況にある。
 特に、かんがい施設は300年前に造られたものであり、老朽化が進み、併せて用水慣行の複雑さもあいまって農業の生産性向上と経営の近代化を図る上で大きな隘路となっていた。 この隘路を打開するためには、300年来の古いかんがい施設を更新し用水配分を合理化して用水の安定を図り、他面排水改良を行うことが緊急の要件と考えられる。
 このため、水源、取水施設として、吉井川中流、和気郡佐伯町天瀬地点に
新田原井堰および備前市坂根地点に坂根合同堰を建設して農業用水を確保し次いで幹・支線用水路の新設改修を行い、農業用水の安定的確保と合理化を図りかんばつ、湛水被害の解消を図るものとする。 また、可能な限り圃場整備、畑地かんがい等を実施し農業経営の合理化と相まって農業所得の向上を図ることとして吉井川農業水利事業として昭和45年に着工し昭和63年度に完了したものである。




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 本事業で造成された用水路は、緑豊かな山並みと、吉井川に代表される豊かな自然の風景や美しい田園風景を基調とした景観の一部となっている



icon 6.造成された施設の現状



 新田原井堰では県営かんがい排水事業「吉井川下流地区」昭和48年~ 平成14年により造成された新田原井堰を利用した小水力発電施設により発電を行っている。 発電された電力は、新田原井堰の操作に必要な電気を除いた余剰電力を中国電力に一端売電し、農業用施設に電力が必要な時期に買電することとしている。 それは、ポンプやゲートなどの電力を必要とする農業用施設が発電所から離れていることと農業用施設の電力需要時期と発電所の電力供給時期が一致しないためである。

 一方坂根堰は、農業・上工水の取水施設として、堰本体は国土交通省が農水取水管理は吉井川下流土地改良区により行われている。

 また、その他の造成された施設は、建設後長期間にわたる通水、風雨等の影響により老朽化し、用水管理に多大な支障をきたしている。 特に水管理施設については、既に耐用年数も経過しており、操作・制御に不具合が生じるなど、洪水時の対応や農業用水の取水に支障がでている。

 このため、これらの施設を補修、更新等を行い、施設の機能の回復及び安全性を確保し、農業用水の安定的供給を行い、農業経営の安定を図ることが必要となっている。

○ 用水路の老朽化の状況

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用水路倒壊状況


○ 水路底の沈下状況



icon 7.おわりに



 吉井川地区は、緑豊かな山並みと、吉井川に代表される豊かな自然の風景や美しい田園風景を基調とした景観が形成されているものの、 近年の都市部のスプロール化、農村部の宅地化に及び地域の農業の担い手不足などに伴い、市街地周辺の田園風景、丘陵地の緑景観及び歴史的風景への影響が懸念されている。
 このため、将来にわたり農業の発展を続けていくため、地域特性に応じた環境配慮を行ない、環境保全型農業の展開や施設の管理を親しみのある、みんなで守る水路として整備する体制づくりを、 中国土地改良調査管理事務所において国営かんがい排水事業吉井川二期地区の計画地区調査を通じて地域関係者のご意見を賜りながら、 持続可能な緑あふれるふるさとを目指して、国営農業用水再編対策事業により基幹水利施設の改修を行うことが計画されている。

参考文献 吉井川事業誌 平成元年3月
     吉井川下流土地改良区25年史
     土地改良建設協会現地研修会資料 平成23年10月