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1.はじめに
2.南予みかん農業の概況
3. 南予用水事業の概要
4.南予用水農業水利事業の概要及び効果
5.関連事業の概要
6.造成された南予用水施設の現状
7.おわりに

icon 1.はじめに



 愛媛県の南予地域は、宇和海に面した温暖な気候に恵まれ、営々と培われた栽培技術と農家の方々の努力で、急傾斜地を、 日本を代表するかんきつ生産団地に形成された地域であります。しかしながら、急峻な地形のため直接降雨が海に流出し、 古くから慢性的な旱魃の脅威にさらされており、特に、昭和42年の大旱魃では、農業用水はもちろん、生活用水にも事欠く事態に陥りみかん農家をはじめ、 南予地域の経済社会全般に大打撃を与えました。
 この教訓を基に、愛媛県は、昭和45年に野村ダムを水源とする南予水源開発計画を策定し、 2市8町の7,200haに及ぶみかん園地へのかんがい用水の供給によるみかん農業の経営基盤強化と生活用水を供給する水道事業との共同施設として地域の水需要を安定供給するプロジェクトを開始しました。
 国営農業水利事業においては、野村ダムを水源として急峻な地形の中を南には宇和島市へ、北西には、佐田岬を縦走して用水を供給する、 実に176kmに及ぶ水路施設と途中に補助水源や調整池2箇所を含む壮大な送水施設を新設するものであり、かんきつ農業においては、 高品質で生産性の高い農業経営への寄与が、また、水道事業においては、安定的に生活用水の確保を行い、地域経済社会に大きく貢献することを目的としたものであります。
 なお、国営農業水利事業は、昭和49年から開始され、26年の歳月と750余億円をもって平成11年に完了しましたが、その事業の概要と現在の状況等についてご紹介いたします。



icon 2.南予みかん農業の概況



2.1南予みかん農業の歴史
 愛媛県におけるみかん農業は、明治時代に入り農業経営の一環として栽培がはじまり、明治維新後に有利な商品作物として拡大していき、 果樹園としての形が整い産地形成されていったもので、温州みかんは吉田町を中心に拡大し、また、夏みかんは西宇和郡を中心に主産地となり、次第に南予4郡の全域に広がりました。
 また、現在では、伊予かんをはじめ多くのかんきつ類が栽培されています。
 もともと、南予の宇和海に面したみかん地帯は、南北に走る分水界が海岸に近く、際立った屈曲と急崖が海岸まで迫るリアス式海岸となっており、 大きな河川もなく、降水は流路が短かく渓流から直接海に流出する地形を呈し、水田は海岸沿いの小さな平坦地や山間地に棚田として点在し、狭小で耕作条件も極めて厳しい状況にあります。
 一方で、山腹傾斜地には、沿岸漁民の自給食料の確保や海岸地域での人口の増加、宇和島藩の藩政施策から開墾による「耕して天に至る」と称される段々畑が拡張発展しております。
 この段々畑には常食としての麦、甘藷栽培が行われ、家計を支える副業として甘藷が販売されるようになり、 続いてハゼ、ショウガ、藍も栽培されていましたが、だんだんと価格が下落し、その後の養蚕の導入においても主要な産地になりました。

 しかしながら、時代とともに価格が低迷し新たな商品作物の導入が切実となり、みかんの栽培の導入や栽培の奨励拡大により、国内有数の産地になるとともに、南予地域農業の時代的な役割を担うに至りました。
 南予のみかん栽培は、急傾斜地のため、排水はよいが旱ばつになりやすく、品質と生産性を高めるために夏期におけるかんがいが重要視されるようになり、かんがい用水と施設の整備が求められるようになりました。

 また、急峻な地形条件にあるため、地域住民の飲料水等の確保にも苦労しており、水道用水の安定確保と施設整備が求められることとなりました。

2.2みかんの生産状況
 温州みかんは、昭和30年代の増植、40年代初めの飛躍的増加で、43年には生産量日本一となりましたが、生産過剰による価格の大暴落となり、 49年から晩かん類等への転換が推進され、62年度までに全国転換面積の実に2割を占めました。

 その後の日米農産物自由化交渉で、国際化の厳しい時代を迎え、銘柄産地としての地位強化のため、優良品種への統一、園地若返り、生産基盤整備、 集団化を積極的に推進し、40年代には普通夏みかんから伊予かん、甘夏かん、ネ-ブル等へ、50年以降には、温州みかんは早生温州みかんへの転換が進み優良団地が形成されました。
 さらには、暖地気象を生かした5月のハウスみかんや中晩かん栽培とほぼ周年供給体制を整え全国をリ-ドしましたが、 九州での極早生温州みかんや静岡県等での高糖系温州みかんへの品種改良が進む中で、愛媛地域では品種更新や改植が遅れましたが、中晩かん類への更新で難局を乗り切っています。

 また、伊予かんについては、早生宮内伊予かんが晩かんの主力となり、日向夏やぽんかん等の栽培面積も増加し、平成5年度における愛媛県の全国シェアは、 伊予かん75%、温州みかん1位、夏かん2位を占め、南予用水受益地の県下生産量は、温州みかん54%、ネ-ブル、甘夏かん60%、伊予かん22%を占める主産地となっています。

2.3生産基盤の状況
 南予におけるみかん園は、江戸時代から造成された段々畑とかんきつ類の 普及によって新たに急傾斜地が開拓された段々畑からなっており、 排水は良好ですが、用水に恵まれず、道路も畦道程度で、農作業は人力による劣悪なほ場条件にあります。
 一方で、宇和海に面し、温暖で日照時間も長く太陽の恵みを直接、海面、段々畑石積で受けるみかん栽培に最適な農地であるため、農道やかんがい用水の確保のための基盤整備が求められていました。
 特に、農道については戦後のかんきつ類の生産拡大に伴い、農耕用トラックの普及に呼応して団体営農道をはじめとした基盤整備事業による整備が進められるとともに、 農道の施工と並行して単軌道(モノレ-ル)も整備されるなど営農労力の改善が図られています。
 また、かんがい用水については、国営南予用水農業水利事業により整備された幹線施設に依存し、この施設から取水する県営かんがい排水事業等の用水事業により、ほ場までの送水施設とかん水施設の整備が図られています。

icon 3. 南予用水事業の概要



3.1旱ばつの歴史と農業用水の確保
 みかんは、他の果樹に比べ浅根性で、地表浅くに根を張り旱ばつに弱い作物です。
 昭和33年、39年には連続旱天日数が30日を超え、42年には90日間も 降雨がなく、70~80年に一度の大旱ばつで水源が枯渇し、 生活用水にも事欠く状況で、農作物の被害は甚大でした。
 みかん園では、葉が萎え、果実は収縮、亀裂、腐敗し、樹体が枯死する状況もみられ、地元の記録では、 生産量が半減し、安価な加工品にしかならず、樹体被害は後遺症が残り、炎天下でのかん水作業等重労働を含め、被害は甚大でした。以降も3年に1回の割合で旱ばつがあり、昭和53年、平成6年にも大きな被害が発生しました。
 なお、昭和42年の旱ばつを契機に南予水資源開発事業の促進をはじめ、畑地かんがいを主目的とした恒久対策が進められることとなりました。
 また、中国四国農政局では、昭和42年度から広域農業開発基本調査を開始し、水源を野村ダムと高知県からの分水を前提で受益適地7,878haを選定し、 46~47年度に地区調査を、48年度に全体実施設計を行いましたが、高知県の分水同意が得られず、野村ダムと地区内補助水源で対応可能な7,200haを受益地とした国営事業に昭和49年度から着手し、平成11年度に完了しました。
 水源である野村ダムは、建設省において昭和48年度に着手され、56年度に竣工しました。

3.2生活用水の実態とその確保
 宇和島市では、昭和34年から43年までの10年間で断水のなかった年は3か年のみで、昭和42年には水資源開発期成同盟会が結成され、農業用水と水道用水確保の強い要望を受け、愛媛県は45年10月に南予水資源開発計画を策定し事業の促進を図りました。
 南予水道用水供給事業は、南予地方の慢性的な水不足、将来の需要増大、住民生活向上、産業発展を図る目的で宇和島市外9市町を対象に、 水源を野村ダムに求め、送水路をかんがい用水との共同事業として、南は宇和島市、北は三崎町までの総延長約87km(うち、トンネル40km)に及ぶ長大水路と浄水場8ケ所(水道専用施設)等を整備しました。

icon 4.南予用水農業水利事業の概要及び効果



(1)事業の概要
受益面積 7,200ha(作付:全てかんきつ果樹園)
関係市町村 宇和島市外1市7町
目的 畑地かんがい(畑地への農業用水の安定的な確保と供給)
水源 野村ダム(肱川に設置の建設省特定多目的ダムに依存)
東蓮寺池(地区内補助水源)
幹線水路等 取水塔(共同事業施設
水路(共同事業施設)
吉田導水路 6.4km(トンネル)
北幹線水路 70.5km(開水路、トンネル、管水路)
南幹線水路 27.1km(開水路、トンネル、管水路)
支線水路 71.8km(開水路、トンネル、管水路)
ファ-ムポンド 37ケ所(幹線7ケ所、支線30ケ所)
揚水機 21ケ所
調整池 2ケ所(布喜川調整池、伊方調整池)(かんがい専用施設
総事業費 750億円(かんがい持分)
工事期間 昭和49年度~平成11年度(26年間)


(2)事業実施による効果
 事業実施中ではありましたが、平成6年度に発生した大旱ばつでは、か ん水可能な約1,800haのみかん園でかん水が行われ、大きな効果をもたらしました。
 また、末端スクリンクラ-は、かん水以外にも防除や施肥、塩害等多目的に活用でき、営農労力の節減に貢献しています。

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icon 5.関連事業の概要



(1)野村ダム建設事業(建設省)
ダム 堤高:60m、堤長:300m、有効貯水量:12,700千m3
目的:特定多目的 (治水、かんがい、上水)
総事業費 286億円(かんがい持分、上水持分含む)
工事期間 昭和48年度~昭和56年度(9年間)


(2) 南予水道用水供給事業(南予用水企業団)・・・かんがいとの共同事業)
供給人口 174,330人(2市8町)・・・供給開始:平成4年~
供給量 日最大:39,310m3、年間:8,945千m3
総事業費 175億円(水道持分)
工事期間 昭和48年度~平成 3年度(19年間)



icon 6.造成された南予用水施設の現状



 南予用水事業は、かんがい用水事業と水道用水供給事業の共同事業とし て幹線水路等の基幹施設の整備を行っており、 地域の主要産業であるみか ん農業を支えるとともに、住民の生活を支える重要なライフラインであり、 施設の耐用年数や老朽化による劣化の対策とともに、 定期的な点検整備や 適切な管理が欠かせない施設です。
 また、南予地域は、地質構造的にも多くの断層帯が存在し、地震が発生 しやすい地域である上に、 近年の頻繁な大規模地震や局地的な集中豪雨、 地球温暖化現象等、従来想定を超えた現象が発生して来ています。
 調整池などダムに匹敵する大規模施設では、被災時における二次災害も 考えた耐震診断とともに、その対策を十分に講じておく必要があります。
 南予用水施設のうち早期に造成された施設は40年程度経過し、耐用年数 的にも老朽化が進行しているものもあり、いずれも重要な施設であるこ とから、 機能の診断とともに、その結果に基づく対策を講じ、長寿命化に 結びつけることが大切です。
 このような状況を踏まえ、中国四国農政局では、平成15年から順次施 設の機能診断等を行い、施設の老朽化状況等を調査して来ていますが、大 規模施設の耐震診断も踏まえ、 一定の施設改修が必要と考えられることか ら、平成26年度から国営施設機能保全事業として改修することとしてい ます。
 主な施設の劣化等の内容は、以下のとおりです。

○野村取水塔の劣化の状況

○伊方揚水機場ポンプの劣化の状況

○7・8号支線2号揚水機場の劣化の状況 〇伊方2号支線機場の電気設備焼失

 なお、共同事業により造成した施設は、南予水道用水供給事業との共同 施設であり、今回の改修に当たっても水道事業との共同事業により改修を行 うこととしております。

icon 7.おわりに



 現在、中国四国農政局四国土地改良調査管理事務所南予用水支所において、国営南予用水施設機能保全事業が平成26年度から立ち上げられ、機能の適正な保全に向けた改修整備事業が開始されました。
参考文献 南予用水農業水利事業誌 平成12年3月
南予用水事業期成同盟会 平成9年3月
南予用水支所資料 平成27年3月