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1. はじめに
2. 地域の自然的立地状況
3.高知西南事業の背景、経緯
4.高知西南事業の実施
5.地域農業の動向
6.平成20年の総合評価
7.今後の課題等
8.おわり

icon 1. はじめに



 活力ある地域農業を展開するため、高知県及び関係市町村の農業振興を基本にして、高知西南地区の造成地においては、 作物の適正と営農技術及び農家の意向を踏まえて、施設野菜・工芸作物・施設花き・果樹を導入し、経営規模の拡大により農業経営の安定を図ることとし、 また、水田の区画整理においては、造成畑利用の推進と及び機械等の共同利用による生産性の向上を図る営農展開が営まれている。 平成13年度に事業が完了し、高知西南地区の工事完了後の事後評価における現状と、今後の課題について紹介する。

icon 2. 地域の自然的立地状況



 高知西南地区は、高知県西南部に位置し、高知県四万十市(旧中村市)、土佐清水市、幡多郡黒潮町(旧大方町)、大月町、三原村にまたがる地区である。

 地形的には、地域の東部は太平洋に注ぐ四万十川下流域及び西部は宿毛湾に注ぐ松田川下流域に比較的広い平地が開ける外は、 沿岸小河川の河口部と沿岸沿いの一部に僅かに平地が開けている。 高知西南の殆どは、標高864.6mの今ノ山をはじめとする山々により形成され域である。

 このような地形条件から、事業実施以前の受益地の形態は、四万十川下流域の低平地に開ける水田地帯及び狭隘な谷部の水田並びに錯綜する畑であった。 また、農地開発を行う土地については、これらと連旦または独立して存在する丘陵地の山林原野から形成されていた。

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 高知西南の気候は、太平洋側の南海気候区に属しており、平均気温は5月から9月の24℃程度、10月~4月の12℃程度で、年間は17℃程度である。 降雨は、梅雨期の6~7月と台風期の8~9月に多く、年間約2370mmである。連続干天日は夏場が多く、37日~71日である。 このように気象条件には大いに恵まれ、農業生産に非常に適した条件を備えている。なお、近年は、平均気温が上昇し、一部の農産物についてはより栽培に適した環境となっている。

icon 3.高知西南事業の背景、経緯



(1)事業導入の背景

 高知西南は、太平洋の黒潮の影響を受け湿度、日照、降水等気象条件には大いに恵まれ、農業生産に非常に適した条件を備えている。

 第三次全国総合開発計画において「基盤整備に関する計画課題地域」に指定された四国西南あって、農業開発のモデル地域として位置付けられていた。

 この中にモデル地域として、高知県幡多圏域が指定された。定住圏の実施主体は市町村であり、都道府県は「市町村と連携し、根幹的施設の整備を中心的に行う」また、 国は「定住圏における地方公共団体の総合的施設の実施に配慮して、定住圏整備のための諸施設の充実、強化を促進する。」ことになっていた。

 これを受けて高知県は、立ち遅れている各種の基盤整備事業を進め、産業の振興を図ることにより就業の場を拡充し、 所得水準の向上を図る目的で重点開発整備計画17事業を設定、定住化を進めることとし、その中で、高知西南地区国営農地開発事業が位置付けられた。

(2)国営事業の経緯

 高知西南地区は、高知県の西南に位置し、四万十市(旧中村市)外4市町村にまたがる標高10~500mに位置する丘陵地と一部谷部がふくまれている山地とから形成されている。

 既耕地は未開墾地周辺に点在していることから基盤整備が遅れており、農業的土地利用がきわめて低く、農業経営は不安定な状況にある。

 このため国営事業は未利用の山林原野から農地を造成して経営規模の拡大を図ると共に、付帯土地改良工事として区画整備を行い、畑地かんがいを実施し農業経営の安定に資するように計画した。

(3)高知西南事業の実施

 昭和55~59年度の地区調査・全体実施設計の期間を経て、昭和61年5月には事業計画を確定し、平成7年度事業完了を予定とする国営農地開発事業(国営高知西南開拓建設事業)に着手し、 平成13年度に、事業量等の変更を伴う計画変更を行い、同年度を以て事業の完了に至ったものである。

icon 4.高知西南事業の実施



 昭和55~59年度の地区調査・全体実施設計の期間を経て、昭和61年5月には事業計画を確定し、 平成7年度事業完了を予定とする国営農地開発事業(国営高知西南開拓建設事業)に着手し、平成13年度に、事業量等の変更を伴う計画変更を行い、 同年度を以て事業の完了に至ったものである。
1)工期 昭和60年度~平成13年度
2)事 業 費 277億円(事業完了時点)
3)受益面積 332ha(事後評価時点)
4)受益戸数 1,194戸
5)主要工事
① 地開発  208ha(開発対象となった山林原野は443ha
②附帯土地改良  124ha(台帳による計画面積126haから実測により減少)
③道路
 西南幹線道路 全幅7.5m(アスファルト舗装4.9km)
 ・双海幹線道路 全幅5.0m(アスファルト舗装1.2km)
 ・支線道路(1) 全幅4.0m(アスファルト舗装21.4km)
 ・支線道路(2) 全幅3.0m(砂利舗装68.9km)
④末端用水路等
 ・地下水取水口 7箇所(井戸:水中渦巻ポンプφ40~50mm
 ・貯水池等取水 11箇所(揚水:水中渦巻ポンプφ32~80mm)
 ・渓流取水 3箇所(揚水:水中渦巻ポンプφ40~65mm)
 ・渓流取水 11箇所(揚水:水中渦巻ポンプφ32~80mm)
⑤末端排水路等
 ・地区外排水路 7箇所(コンクリート三面張1,500×1,000~4,500×3,000mmブロック積H=1,500~1,800mm)
 ・地区内排水路 7箇所(コンクリート三面張1,100×1,000~4,500×1,700mmブロック積H=1,300~1,500mm)
 ・末端排水路 58.0km(鉄筋コンクリートU形180~600mm)
⑥侵食防止施設
 ・洪水調整池 14箇所(土堰堤式)
 ・沈砂池 47箇所(堀込式)
⑦関連事業及び関連する施設
 ・該当なし

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(2)国営農地開発事業「高知西南地区」(変更計画)の概要

 国営農地開発事業「高知西南地区」については、以下により平成13年3月に第1回計画変更に係る変更計画を決定し、 同年5月2日には、土地改良法上の手続きを経て変更計画を確定している。

  1)計画変更が必要となった背景

 農産物の輸入自由化等による価格の低迷や、造成地下流域への環境配慮に伴う開発適地の減少に加え、 平成11年3月に閣議決定された第2次地方分権推進計画において、「国営農地開発事業は、平成15年度までの5年間で継続中の事業を全て完了させる」とされたことから、 地元等の調整を経て、事業計画の見直しを行ったものである。

 また、用水施設は、造成面積の減少に伴い中筋川ダム掛からの用水施設は中止し、各団地の渓流水源施設等による団地完結型へ用水計画の見直しを行った。

  2)計画変更の内容

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 ※ 農地開発の事業量変更による減少、並びに工法変更(造成農地を可能な限り緩傾
   斜とした等)による増加の結果、変更計画の事業費は若干の減少となった。

icon 5.地域農業の動向



 (1)土地利用の状況

 高知西南地域の耕地面積は、昭和55年の5,560haから平成17年の3,982haと28%減少しているが、県全体平均における31%の減少に比べ、緩やかな減少となっている。

 地目別では、樹園地及び牧草地は、近年までの減少傾向から増加に転じており、果樹においては、 平成12年から平成17年にかけて増加となっており、振興作物である土佐文旦等の果樹栽培面積の拡大及び耕作を継続して農地として維持しようとする 農家の農地保全意識が反映されていることによるものと考えられる。作付けの拡大が影響している。

 (2)専兼業別農家数

 総農家数は、地域、県全体ともに減少傾向にある。 また、高知西南地域の農家構成比では、専業農家が平成12年から平成17年にかけて53戸の増となっており 増減率においても5ポイントの増加となっているのが特徴的であり、高齢専業の増加がこの大宗をなすものと考えられるものの、この中には、本事業の実施と併せて増加してきた新規就農者も少なからず含まれている。

 (3)経営規模別農家数

 農家の経営規模別にみると、高知西南地域で3ha以上を経営している農家は昭和55年の77戸から平成17年の126戸と1.6倍の増加を示していることから、 農家の経営規模の拡大が進んでいると考えられる。一方、高齢専業農家の拡大によると思われる0.3ha未満を経営する農家も増加しており、規模拡大農家と、零細経営農家に二軸化している。

 (4)農業就業人口及び基幹的農業従事者数

 農業就業人口は減少傾向にあり、高知西南地域では昭和55年の8,593人から平成17年の3,692人と43%に減少しており、県においても50%まで減少している。
同様に基幹的農業従事者数は、高知西南地域では昭和55年の5,029人から平成17年の2,134人と42%に減少しており、県においても53%まで減少している。

 一方で、平成7年以降から新規就農者の確保が着実に進み、平成17年には、県全体の新規就農者数の15%を占める16人の新規就農者を確保するに至り、地域農業の担い手として期待されている。

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 (5)作物別作付けの推移

 作物作付面積は、高知西南地域及び高知県ともに減少傾向にある。高知西南地域では昭和55年の5,682haから平成17年の3,507haと38%減少しており、県においても43%減少している。

 作物別では、稲、野菜、果樹、工芸農作物、飼肥料作物が主要であり、高知西南地域においては、果樹、野菜の作付(作付延べ)面積が平成12年から平成17年にかけて拡大に転じている。 特に果樹においては、高知西南地区の造成地への作付け拡大が年々増加しており、事業の実施が地域の果樹振興の一助となっているといえる。

 なお、減少傾向を示す水稲については、県において36%減少しているのに対し、高知西南地域では27%の減少にとどまっている。 また、工芸作物については県において67%減少しているのに対し、地域では54%の減少にとどまっている。

 (6)野菜、果樹等の作付面積拡大の背景及び作物選択の拡大について

 高知西南地域の野菜及び果樹の作付面積の増加は、農業振興センターやJA等の営農支援活動とともに、土地利用型の単作作物の作付けから集約型の複合経営に移行する、 あるいは、より高収益型品種に転換する等により経営の安定化を図ろうとする農家の努力による結果と考えられる。

 また、農家の作物選択の拡大の背景としては、野菜指定産地としての指定もその一因であるが、加えて、幡多農業改良普及センターにおける、 振興作物についての営農、経営の実態を把握し「営農経営モデル」として紹介してきたことも大きな要因といえる。
具体的には、事業完了当時の平成12年度以降においては、野菜において長なすが新規モデルとして紹介され、また果樹においては、 土佐文旦の細分(ハウス、露地)、なしの新高、豊水がそれぞれモデルとして新たに紹介されている。

 このように、高知西南地域の農家が円滑に新規作物を導入する環境が整っていたことが、農家の作物選択の自由度を拡大してきたといえ、 高知西南地域におけるこのような動きは、本事業の受益地内においても同様にいえるものであり、計画作物が事後評価時点で多様な作物に転換していることの背景となっている。

 (7)農業生産法人及び生産組織並びに認定農業者数の動向等

 高知西南地域内の農業生産組織は24組織あり、組織化が進みつつある。しかしながら法人化の進展は急激ではなく、今後徐々に法人化が見込まれる状況にある。

 また、認定農業者は県、地域ともに増加しており、地域では平成10年の150人から平
成19年の289人、県全体においても1,036人から3,563人と増加している。

 法人化が比較的緩やかに進行し、一方で認定農業者数が堅調に伸びを見せる背景には、個別経営体において、安定的な経営が成されていることによるものである。

 これら、地域農業の担い手の確保に関しては、行政等による新規就農及び営農技術の
向上を目的とした研修制度が展開され、これまでに19名が研修を受け就農するなど着実な成果が現れている。

 (8)耕作放棄の動向

 農業生産基盤の整備を行った農地においては、殆ど耕作放棄は発生しておらず、このことは本事業の受益地についても同様である。

 なお、事業受益地においては、平成19年度より、新たな耕作放棄防止の活動が進められており、農地の保全と利用促進が期待される。

icon 6.平成20年の総合評価



(1)社会経済情勢の変化

  高知西南地区では、人口及び農業就業人口の顕著な減少が見られ、同様に減少する農家数にあっては 小規模零細な専業農家の割合が拡大するなど産業としての農業の減退が懸念される状況となっているが、一方では、規模拡大を指向する農家が増え、 地域農業の担い手となる認定農業者や担い手支援による新規就農の拡大も見られるなど、農家が総担い手となっている状況から、 地域の中心となる効率的・安定的経営体を核とした農業の展開が今後期待される状況となっている。

(2)事業により整備された施設の利用・管理状況

  今後とも、国営事業で整備された、農業用排水路、支線道路等の施設は、各土地改良区及び関係農家によって適正に管理されることが見込まれている。

(3)事業効果の発現状況

 1)政策面の効果

  ① 担い手の育成確保

   高知西南地区では、整備された農業生産基盤の下、認定農業者数も増加しており、効率的・安定的な農業経営育成への取組が進められている。

  また、高知西南地区では、個別経営体のなかでも特に施設野菜、果樹等にあっては、Uターンにより地元に戻って農業研修を受けている後継者、営農者の孫等、 これからの農業を担っていく若い後継者が確保されるなど、慢性的な後継者不足の中、本事業による受益地を基盤とした担い手の世代交替が着実に行われている。

  ② 優良農地の確保

  農地造成を行った区域においては、持山参加による事業であったことから、事業参加者と耕作希望者との賃貸借契約が進まないことによる耕作放棄が懸念されていたが、 事後評価時点では、市町村等の優先的な事業受益地の保全、利用対策の取組の下、受益地が担い手農家に集約され、大区画の優良農地としての利用が促進されている。

  また、区画整理を行った区域においては、谷津田の湿田や傾斜地の狭小かつ不整形な農地であったため耕作放棄が懸念されていたが、 本事業により20a~50a程度に整形された乾田となり、作業効率に優れたほ場の下での農業生産活動の継続によって耕作放棄の発生が抑止されている。

icon 7.今後の課題等



(1)分野別課題

 野菜類については、資材費の増嵩等に対応すべく一層の生産費抑制の検討が必要である。 また、特に集約的な大葉、しょうが等の施設野菜では、繁忙期の安定的労働力の確保をどうするかが今後の課題となる。

 果樹については、経営安定化に向けた規模拡大と機械装備の更新について長期的視点から備えていく必要がある。

 葉たばこについては、土砂流出防止等を目的とする作物の付加価値(地域経済等への波及効果)を評価し、 その効果を共有する枠組みを検討するとともに、新規作物への転換についても検討が必要である。

 施設花きについては、施設の維持経費の節減とともに、後継者の確保が今後の課題といえる。 また、生産組織の起ち上げが比較的少ない本地域は、 個別経営体で十分に経営が出来ているともいえるが、より合理的な経営体質への改善のための組織化の検討や、 地域の協働的な取組による農業生産基盤を維持保全していくための労力の軽減についても早期に進めていくことが重要である。

(2)担い手の育成確保

 高知県及び関係市町村における新規就農者等の担い手確保対策とともに、従来から栽培技術を持った農家の集まりや、法人の協力体制の下、 新規就農者に対し栽培技術から販売戦略までの情報提供を行うなど多方面からの支援を継続、強化していくことが重要である。

(3)地域ぐるみの農業振興への取組

 農業用資材等生産費の増嵩は農家の経営の存続をも左右するとの懸念が強いが、農業部門の地域経済波及効果が地域産業を広く底支えしていることをPRし、 農業生産活動の健全な維持発展を地域ぐるみで考える取組の啓発を進めていくことが重要である。

icon 8.おわり



 生産費の増嵩に対する、一層の経営の合理化が求められるとともに、比較的担い手確保の取組が進んでいる地域ではあるものの、今後は多様な担い手の形態を模索する必要があるといえる。

 さらに、多様な作付けが認められる本地区では、新規作物の販路の確保、産地化の促進など、高収益型農業の確立に向けた多様な営農展開が期待される。

 加えて、生産条件の厳しい団地にあっては、整備された農業生産基盤を継続して維持していくことが、農業生産の維持・増進はもとより、農地の持つ多面的機能の維持の観点からも重要な課題といえる。

引用・参考文献

  ・高知西南事業誌 平成13年3月 高知西南開拓建設事業所

  ・国営土地改良事業事後評価  国営農地開発事業「高知西南地区」