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1.はじめに
2.緊急開拓事業、国営水沢開拓建設事業・開発地の営農指導
3.苗場山地域で実施された国営土地改良事業
4.国営苗場山麓第二開拓建設事業
5.苗場山麓開拓に尽力された人
6.津南町の農業出荷額
7.津南町農業を支える先進的な施設
8.津南町が今、取り組んでいること

icon 1.はじめに



 (地域の概要と事業実施の経緯)
 新潟県の南端に位置し長野県境に接する津南町はその南西から北東に信濃川が流れ、右岸側から志久見川、中津川、清津川が注ぎこむ。
 40数万年前からこの河川の働きと台地の隆起により日本最大規模の9段の河岸段丘が形成され、この台地上で苗場山麓農地開発事業が展開された。
 信濃川右岸には農用地の開発可能適地が16,000ha程あるものの、かんがい用水を台地へ導く難しさと日本有数の豪雪地帯で特に冬場の交通確保が難しく土地利用開発が遅れていた。
津南町の雄大な河岸段丘(信濃川左岸から撮影)

 新潟県農地部は昭和20年代後半からこの地域の開発調査を進め30年代後半に農民の開田熱意が高まったので41年9月に「苗場山麓全域の開発構想」をとり纏めた。
 計画では信濃川支流の清津川に貯水量53,000千m3のダムを建設し、かんがい用水を確保。開田1,840ha、開畑11,460ha(内潅水畑900ha)既水田2,000haの整備を行い水田を基軸に畜産との複合一大産地を築くという壮大な企てだった。
 この実現に「苗場山麓開拓パイロット事業推進協議会」が設置され国に事業実施を働きかけた。昭和42年には現況把握を中心とした北陸農政局の直轄調査が行われ43年に農地開発事業計画樹立のための新規調査地区に採択された。
 しかし同年、開田抑制が始まり翌年から減反政策が本格的に実施された。農政の大転換に直面した当地区は開田から開畑に変更し事業推進への意思統一を図った。
 また水源とした清津川ダム実施の目途が立たないことから中津川右岸台地を分離、昭和48年に単独水源を求め、中津川左岸と志久見川右岸台地971ha(変更後756ha)で先行着手したのが国営総合農地開発事業「苗場山麓第一地区」である。
そして第一地区を除いた区域を「苗場山麓第二地区」としたが清津川ダム着工と十日町市の意思統一の遅れ等から昭和48年に十日町台地を第三地区に分離。中津川右岸と清津川支流釜川左岸間の段丘1,710haを第二地区として進め昭和50年に着工した。
 その後、昭和60年代に入ると新規開拓より既耕地の整備へ意識が変化し地区除外の要請も出たことから平成3年度、津南町では地区活性化に向けに残工事区域に新設の「国営農地再編パイロット事業」を織り込んだ総合計画を作成。平成4年度に事業受益面積463haの国営農地再編パイロット事業「苗場地区」が発足した。
 また「苗場第二地区」は平成10年度に計画変更を行い地区面積を1,056haに縮小し平成11年度に完了。その一部が移行した国営農地再編整備事業「苗場地区」は平成14年度に完了した。
 ※国営農地再編パイロット事業は国営農地再編整備事業と名称変更
  また、受益面積は変更で756haとなる

icon 2.緊急開拓事業、国営水沢開拓建設事業・開発地の営農指導



 昭和20年の稲作不作に加え終戦で復員者と海外引揚者による人口増が相まって深刻な食糧危機に見まわれた。対策に食糧増産、復員者の就業の場を設ける施策が緊急開拓事業である。
 津南町では秋成、中深見、下船渡、倉俣の4ヶ村に跨る河岸段丘上1,400haの台地が緊急開拓地に指定された。そして国から委託された「新潟県農業会」が開田、開畑とこれに必要な用水確保を含めた開拓建設計画を策定、昭和21年10月事業に着手した。
 この事業は新潟県農業会が組織した機械開墾隊が開墾を行い入植者は労働賃金を得ながら仮配分された未墾地を手作業で切開く方式がとられた。
 昭和23年国の委託事業及び農地開発営団が廃止されると基幹施設の建設は国に引き継がれた。
 これが国営水沢津南開拓建設事業で清津川右岸で農地開発営団が昭和17年度から進めた水沢地区(南雲原地域)の基幹施設も国で実施することとなった。また基幹施設は昭和29年度に一応完成したが、その後も整備を重ね昭和36年に完了した。
 開田面積、入植者数も計画に近い成果を上げた。この成功には新たな水源開発に清津川支流釜川に大場頭首工を設け台地最上段に築造した大谷地ため池まで導いた効果によるところが大である。また大場頭首工から大谷地ため池への導水施設は「苗場開拓第二地区」で全面改修された。
 また、津南開拓入植者の営農指導に当たったのは昭和23年6月北陸4県唯一の施設として設置された開拓実験農場である。その後昭和44年に「新潟県農業試験場津南試験地」と名を変え、さらに苗場山麓開拓事業の本格化に伴い昭和55年「新潟県高冷地農業技術センター」、平成9年に「新潟県農業総合研究所高冷地農業技術センター」に改組され現在に至っている。
新潟県高冷地農業技術センター(中深見乙)

icon 3.苗場山地域で実施された国営土地改良事業





3-1.国営水沢津南開拓建設事業
 昭和17年から農地開発営団が清津川右岸で実施した水沢地区(南雲原地域)の基幹施設は昭和23年の農地開発営団廃止に伴い国の直轄事業に移行し昭和36年度に完了した。

・事業地域
 計画開墾面積
  水沢工区1,30.5ha(中里村、十日町市))
津南工区 807.0ha(津南町、中里村)

・主要工事計画
水沢工区 ため池5箇所、用水路、幹線道路8路線
津南工区 取水施設(大場取入堰)、導水路、ため池、用水路、幹線道路
       7路線、排水路
・工期
  昭和17年から昭和36年

3-2..国営苗場山麓第一開拓建設事業
 事業区域は津南町の沖の原、天上原、城原の3台地を対象としている。この台地は用水源に乏しく未墾地が多く残され既耕地も粗放的な状態におかれていた。このため志久見川支流の横平川に水源を求め既耕地189haの畑地かんがい、23haの用水補給を行う城原ダムを建設し409haの新たな農地を造成、併せて214haの区画整理を行い経営規模の拡大、生産性の向上により農業経営の安定に資するものである。

・地区面積と関係市町村   756ha(津南町)
・受益面積        農地造成  409ha(畑)
区画整理 214ha(水田25ha、畑189ha)
農業用用排水239ha(区画整理と重複)
・受益戸数 558戸

・主要工事計画
農地造成及び区画整理 623ha
取水口 1箇所 横平取水口(チロル式渓流取水型)
貯水池 1箇所  城原ダム(均一型アースフィルダム、堤高27m、堤長662m、
総貯水量1,200千m3)
 揚水機場4ヶ所  城原揚水機場、中子・相吉揚水機場、天上原揚水機場
用水路 導水路 1路線 (横平導水路5,350m)
幹線用水路 1路線 (2,550m)
 支線用水路   6路線 (10,373m)

道路 107,699m
総事業費 15,445百万円
農地造成

野沢菜収穫


icon 4.国営苗場山麓第二開拓建設事業



 事業区域は中津川と清津川支流の釜川間の段丘とする。地区内は未墾地が多く水田は複雑な地形による水路の蛇行や施設の老朽化により用水不足をきたし畑作は天水に依存していた。
 この為、未墾地から新たに219haの農地を造成し隣接する既耕地397haの区画整理を行い、関連する国営農地再編整備事業「苗場地区」の区画整理区域を含め、畑地かんがい168ha用水補給443haの各事業を一体的に実施し、新たな営農体型の導入と経営規模の拡大、生産性の向上により農業経営の安定を図ることを目的としている。

・地区面積と関係市町村   1,054ha(津南町766ha、中里村288ha)
・受益面積        農地造成  219ha(畑)
区画整理 397ha(水田282ha、畑115ha)
農業用用排水611ha(関連事業分241ha)
・受益戸数 805戸

・主要工事計画
農地造成及び区画整理 618ha
取水口 2箇所 雑水山頭首工(チロル式渓流取水型)
大場頭首工 (チロル式渓流取水型)
 貯水池 2箇所  大谷地ダム (均一型アースフィルダム、堤高23.2m、堤長                 1,780m、総貯水量1,206千m3)
  源内山調整池(傾斜遮水式ゾーン型フィルダム、堤高11.6m、                堤長、1,072m総貯水量401千m3)
 揚水機場1ヶ所  原揚水機場
用水路 導水路 2路線 (大場導水路5,100m、雑水山導水路5,300m)
幹線用水路 2路線 (7,000m)
 支線用水路   8路線 (13,300m)
道路 108,500m
総事業費 25,500百万円

3-3.国営農地利用再編苗場地区
 国営農地利用再編パイロット事業が発足した平成4年度以降、農業・農村を巡る情勢は変化した。
 苗場第一、第二地区の展開で津南町では畑作を主体とした複合型の専業農家が増加したものの大規模畑作と未整備水田の複合経営の非効率化が課題となっていた。
 この対策として未墾地41haの農地造成と合わせ未整備水田の615haを再編整備する区画整理を行うこととした。

・地区面積と関係市町村   756ha(津南町)

・主要工事
      農地造成   41ha(畑)
区画整理 615ha(水田567ha、畑48ha)

道路    幹線道路    6路線(6.7km)
支線道路(A)  7路線(6.3km)
支線道路(B) 234路線(70.1km)

 総事業費 165億円

icon 5.苗場山麓開拓に尽力された人



村山正司(1916-2009)
 国営苗場山麓開発、大規模年金保養基地グリーンピア津南など津南町の基礎を築く。氏は下船渡村議から新生津南町議に副議長在職中2度、町長選に出馬し1963年2月町長に、町長4期後、1978年新潟県農協中央会理事長就任を期に勇退。
 全国農協中央会理事時代ベルギーブリュッセルのガット農業交渉でむしろ旗を掲げて抗議行動を起こしたことはあまりにも有名である。平成14年5月まで津南町農協組合長に就き津南町の農業振興に尽力した。(津南町名誉町民)

小林三喜男(1934-2013)
 1934年津南町に生まれる。1959年、町長選に出馬した村山正司氏と初対面、以来、生涯の師と仰ぐ。1967年津南町町会議員一期務めた後1971年、村山町長に請われ津南町役場に入る。
 以降開発課長、農政課長、建設課長を歴任し1986年退職、津南町長選初出馬。
 1990年、津南町長当選、以降2010年任期満了退任まで5期務める。終始一貫国営苗場開拓開発と津南町発展に尽くした。


icon 6.津南町の農業出荷額





 年間の農業出荷総額は43億8千6百万円、内農地開発にかかる畑作生産額は11億9千万円である。切花が4.9億円、以下にんじん1.7億円アスパラ1.2億円、スイートコーン0.9億円、野沢菜が0.8億円と続く。(平成29年度津南町農林水産統計から)
 津南町の農業出荷額は上表に示す如く約44億円(29年度統計)で我が国有数の食料生産基地である。国営苗場山麓開発地から生産された新鮮野菜は県内はもとより全国の食卓へ届けられる。
 また苗場開拓地区で特筆されるのは前年度に農地造成したほ場に営農が根付くのを見つつ、各種補助事業の成果、地域情勢を勘案し十分な地元調整の上で翌年度の造成地域、面積を確定させたことである。
 このことが未植栽を生まず全国的にも農地開発の最優良地区と云われる所以であろう。 
 2000年3月に県内で112あった自治体は2010年3月まで82が消滅(合併)し30迄に減少した。(減少率全国3位)近傍市町村が十日町市に吸収されるなか津南町は自立の道を選ぶ。
 農業基盤の確立に寄与した「国営3事業」が終わり、これを生かした町独自の産業振興策を進めようとしたことが最大の理由である。
 国営事業の軌跡を回顧し農業の発展を願い、町是「農を以て立町の基と為す」と刻んだ記念碑が役場庁舎脇に建てられた。どっしりと構えるこの碑は津南町自立の象徴として広く親しまれている。

のう もつ 立町 りつちよう もとい

icon 7.津南町農業を支える先進的な施設



1)野菜集出荷場(津南町赤沢)津南野菜の発信地
 二棟の集出荷施設あり、第一予冷庫には県内に二つしかない真空予冷装置、 第二予冷庫には天然雪を利用した雪室が備わっている。
 春から秋にかけて町内で朝取りされたアスパラ、人参、キャベツ、大根、スイートコーンなど全ての作物が集められ素早く冷却し美味しさを閉じこめ、取れたての鮮度を保ち、その日のうちに関東や県内に出荷される。

2)人参選果場(津南町赤沢)
 鮮度を保ち品質低下を防ぐため2℃の冷水で洗浄。センサー選果を実施し徹 底した品質管理で低温冷蔵施設へ送るコールドチェーンラインによる選果体制 を確立している。

3)津南原センター(津南町米原)津南ユリの発信地
 冬期間降った雪約1,200t貯蔵する雪室を冷却源にした集荷場、保冷庫、冷凍庫の冷却を通年行うことが出来る。町内で生産されたユリ(カサブランカ)が集められ予冷後、全国へ出荷される。切花は一年中、球根は冬期間ここで眠る。

4)農産加工場(津南町下船渡甲)
 地元でとれた人参などを当加工所に集め塩漬けにして津南町森林組合に出 荷。さらに大手食品会社がレトルト食品として販売。

5)堆肥センター・炭化施設(津南町赤沢)
 農用地の土作りを目的として牛糞、きのこ廃床、籾殻、野菜の残渣などを二 次資源として堆肥に生まれ変わらせる資源循環型堆肥化施設。
 また住宅解体材や杉皮を炭化し土壌改良材として利用するため堆肥センター隣接地に建設した。炭には土壌微生物の活動を促進させる効果がある。

6)資材センター(下舟渡戊)
 肥料、農薬、農業用資材を幅広く取りそろえ組合員に提供サービスを行う。

7)ライスセンター(下船渡甲、大谷地)
 一定湿度で大量の風を籾に送り自然乾燥と同じ条件でじっくりと何日もかけ て籾を乾燥させ自然乾燥の食味をで食卓へ届ける。県内初の新技術を取り入れ た施設である。

8)シードセンター(上郷子種新田)
 安全で美味しい津南産魚沼米の種子を最終的に仕上げる施設で平成6年に新築。最新機械を使って稼働、農家が丹誠込めて作った種子をさらに厳選し魚沼の各産地へ供給している。

9)精米所(下船渡丁)
 JA津南の精米施設。石ぬき、色彩選別装置導入の高性能精米機で美味しい津南米が全国各地へ供給される。
雪下人参の収穫

 夏に播種し雪の下で約4ヶ月間寝かせ春に雪の下から掘り起こす。甘みが増しサラダなど生でも味わえる豪雪地津南ならではの絶品。

icon 8.津南町が今、取り組んでいること



1.新規就農者支援事業
 津南町では高原に開かれた広大な台地に北海道なみの大型農業経営を展開するやる気のある新規就農者を募っている。40歳以下で津南町に定住し就農したい人に門戸を開いている。

・研修先の(財)津南町農業公社、先進的畑作農業者(研修者1名につき2~3名の農家が指導)は本人の選択。

・研修期間は3ヶ年以内(但し4月から11月頃まで)研修期間中は月額5万円の助成金を貸し付ける。

・また、津南町で農業に取り組みたいとUターン、Iターンの新規就農者も増え将来に期待が持てる。
新規就農者技術習得施設(ファームハイツ)

参考文献
・津南町史 津南町
・段丘拓潤(苗場開拓第一地区事業誌) 北陸農政局苗場開拓建設事業所
・農業基盤整備事業の展開とその地域的効果 宮地忠幸
・農を以て立町の基と為す(農地再編整備事業誌 北陸農政局苗場農地整備事業所
・夢いきいき津南は未来へ(津南町制施行30周年記念調整要覧/’85) 津波町
・津南町ホームページ 津南町
・津南農協ホームページ