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1.地域の概況
2.古代の水利
3.中世以降の水利と水争い
4.野洲川ダム等の国営事業化
5.計画洪水流量の大幅増で災害発生が危惧
6.国営野洲川農業水利事業等の効果
7.国営総合農地防災事業における環境配慮
8.野洲川沿岸における地域住民との交流
9.国営2事業の概要

icon 1.地域の概況



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図-1 野洲川地区位置図
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 滋賀県の湖南・甲賀地域に位置する野洲川は、鈴鹿連峰に源を発し、西流して滋賀の甲賀市、湖南市、栗東市、守山市、野洲市を貫流して琵琶湖に注ぐ延長65kmも及ぶ県下最大の河川です。また、この野洲川沿いは、京都と伊勢神宮を結ぶ街道として、参勤交代や商人たちの宿駅として栄えたところで、現在では国道1号線(旧東海道)、名神高速道路(第二名神含む)、JR草津線など、京阪神、中京を結ぶ交通の要衝となっています。

 本地域は、野洲川下流部に位置する湖南地域(守山市、栗東市、野洲市)と上流部に位置する甲賀地域(湖南市、甲賀市)により成っていますが、本地域の農業は水稲を中心として、湖南地域においては 野菜・花きが、甲賀地域においては茶が生産されており、滋賀県下でも有数な農業地帯となっています。


icon 2.古代の水利



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図-2 野洲川下流部古代遺跡の分布
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 野洲川下流の肥沃な(低地の)湿地は、古代から耕地として利用されていました。氾濫原を流れる無数の小河川からは、古代の原始的な土木技術でも容易に水を引いてくることができたのです。地域には、近くの小学生が土器の破片を拾ったことによって、明らかになった服部遺跡(100m2区画面積で細かく区切られた弥生時代の水田跡など)の他、古代の水田遺構が各所で見つかっています。

 大化の改新後、公地公民制により、畿内を中心に全国各地で条里制がしかれました。野洲川下流には、現在でも、規則的に通る道路などに条里制の影響が色濃く残っています。また、野洲市の「五之里」「五条」「六条五之坪」、守山市の「十二里」、栗東市の「十里」「綣の七里」など、小字の地名として条里制の名残を見ることもできます。

 しかし、まだ灌漑(かんがい)技術が発達していなかった当時、土地が整然と整理されても、そこに水を引いてくることができなかったため、すべての土地を開田することはできなかったと考えられています。


icon 3.中世以降の水利と水争い



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写真-1 平清盛ゆかりの祇王井用水
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 奈良時代の743年、懇田永年私財法が発令され、公地公民制が崩れると、荘園時代が始まります。野洲川流域には、延暦寺系、法隆寺系、大安寺系などの荘園がありました。有力な寺院は、田畑を開墾し、同時に河川から農地に水を引くための堰を設けていきました。

 しかし、もともと河川の水が少ない野洲川。分散した領主によって、こぞって開発が行なわれると、上流と下流、左岸と右岸で水を巡った争いが起こりました。

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図-3 野洲川の井堰(1700年頃)
(出典:ARIC情報 新たな水辺空間の創造に向けて「環境との調和に配慮した事業への道のり(野洲川沿岸地区)」 №68-2003)
 野洲川筋での水利紛争も歴史的に遡れば古く、その争いの如何に激烈であり悲惨であったかを伝える夥しい史料が諸部落に保存されています。それによれば、豊臣秀吉の天下統一が成ったとは言え、戦国の余燼なお消えざる慶長12年、現石部頭首工附近で左岸取水をしていた「一ノ井」とその下流井堰「中ノ井」は、決起して新しい井堰を設け、さらに下流に位置する井堰の「今井」の用水を、かがり火を焚き武器を執って奪取するなど、非常に激烈を極めた水利紛争を展開したとのことです。その後、数年を経ずして全国的な大旱魃に見舞われた寛永3年にも相争い、清冽な野洲の河原に凄惨な鮮血を流す悲劇をも起こしました。


icon 4.野洲川ダム等の国営事業化



国営かんがい排水事業「野洲川地区」の実施(昭和22年)

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写真-2 水車を踏む老人:水をひくのに苦労が絶えなかった。
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 先に述べたとおり、この野洲川に依存する井組は流血の惨事を起す水争いを繰り返す状態でした。このため、根本的に用水補給策を切実に求める沿岸農民の熱意が実り、遂に昭和8年の大旱魃を契機として野洲川ダム建設の議が起り、14年12月の滋賀県通常県会において総工事費210万円で7ヶ年継続工事として野洲川上流に県営ダム建設する事が議決されたのでした。ここに沿岸農民の積年の願いである安定的な用水確保に向けた抜本的な対策の事業化が県営事業としてスタートすることとなったのです。

 しかし、事局は支那事変が深刻拡大されんと言う 時期でもあり一時工事を中止することとなりました。 その後、終戦となるや食糧増産が緊急を要することと なり、終戦直後の昭和22年7月から農林省直轄事業 となりました。

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写真-3 旧野洲川ダム建設工事:築立工事(昭和25年11月)
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 しかし、予算面、資材面共に少なく、事業の始めは進展を見ませんでしたが、幸いにもこの事業に対して駐留軍の理解を得ることができたとして、多量の資材供給と、莫大な見返資金を受け、農林省予算として、当時の最高額を年々割り当てられることとなりました。昭和25年には米国対日援助見返資金214,000千円の割当を受け、工事はますます進展して、昭和26年7月には野洲川ダムの貯水を見るに至りました、その後昭和27年より石部頭首工に着手し、昭和29年9月にはこの工事も完成しました。引続き水口頭首工工事に着手し、昭和30年7月には附帯工事の導水路895.38m(暗渠46m)と共に完成し、ここに国 営事業は完全に竣功を見るに至ったのでした。



icon 5.計画洪水流量の大幅増で災害発生が危惧



国営総合農地防災事業「野洲川沿岸地区」の実施(平成11年)

 野洲川の源流となる鈴鹿山脈の地質は秩父古生層に属し、砂岩、頁岩(けつがん)、石灰岩などからなりますが、野洲川の流域では花崗岩帯が主となり、これらの花崗岩は地表付近で風化が著しいほかマサ化することが多くたびたび豪雨による斜面崩壊を起こすと言われています。

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写真-4 ゲートを有する洪水吐から自由越流型洪水吐に変身した野洲川ダム
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
 野洲川ダム完成から40年の経過を経た当流域では、山林の崩壊や地域開発の進行、更には降雨強度の増加など、自然的・社会的状況の変化に起因して流出量が増大するという現象が顕在化し、野洲川ダム及び石部頭首工の洪水流下能力が不足するなど、洪水時の管理に係わる重大な機能低下という新たな問題が生じてきました。

 このため、国営総合農地防災事業の実施により、野洲川ダムについては、設計洪水流量308m3/sから830m3/sの洪水量にも対応できるよう改修することとし、洪水吐のタイプをゲート型から自由越流式堤趾導流タイプに変えることとしました。また、石部頭首工については、計画高水流量1800m3/sから4500m3/sの洪水に対応できるよう、全面改修(新設)することとし、洪水吐のタイプを固定堰からゴム引布製起伏堰に変えることとしました。


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図-4 ゴム堰の説明
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌
平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
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写真-5 コンクリート製固定堰からゴム製布引起伏堰に変身した石部頭首工
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌
平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)


icon 6.国営野洲川農業水利事業等の効果



 野洲川ダムの建設と井堰の統合(近代に現存していた74個所から4頭首工に)並びに65kmに及ぶ幹線水路など、大規模な水利施設の出現によって、過去の慢性的な用水不足から解放され、中世以降繰り返された野洲川筋での水争いも無くなりました。
 また、農業用水の安定的な供給により、基幹作物の水稲や野菜等の営農活動の自由度が増し、収量の安定や品質の向上が図られると共に、ほ場整備の事業化など基盤整備が進められています。
 水利施設の維持管理面においても、これまで井組など地域の水源毎に伝承されてきた水利秩序は国営事業の実施により、これら施設並びに用水の管理は昭和33年設立された野洲川土地改良区に移行し、農家の管理労力が大幅に節減され、その余剰労力は近傍の工場等に投入され農外所得の増加にも貢献しています。
 なお、野洲川の計画洪水流量は、当流域の状況変化に起因してダム完成時の2.5倍程度に増大しましたが、国営農地防災事業による野洲川ダム及び石部頭首工の改修工事では、新たな計画洪水流量に対応した洪水流下能力に改善され、洪水時の安全管理に寄与しています。


icon 7.国営総合農地防災事業における環境配慮



 野洲川ダムと石部頭首工の農地防災事業による抜本的な改修工事は平成11年にスタートしましたが、おりしも平成5年に環境基本法、平成9年には環境影響評価法などが成立し、環境に対する社会の関心が高まってきました。また、平成12年に公布された食料・農業・農村基本法においても「環境との調和への配慮」がうたわれましたし、平成14年には改正土地改良法が施行され、国営事業においても事業実施の原則として、「環境との調和への配慮」が位置付けられたところです。

 このような社会的背景のもと、この事業の実施に当たっては全国に先駆け自然生態系などへの影響を評価し、併せて周辺環境にも調和し、親水等に配慮した施設として利活用されるよう、各種委員会の指導・助言を頂き、施設設計等の検討を進めてきました。

1.石部頭首工

 県土木が主宰する「石部・甲西の川づくりトーク」の要望に配慮し、現頭首工の上下流の中州を保全するとともに、特筆すべき植物の種については必要に応じて移植や種子の採取・播種等を行うこととしました。

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写真-6 撤去した河川内の中州から保全対象の中州へ移植した貴重種のカワラハハコの移植
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)

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写真-7 中洲を保全して完成した石部頭首工の上下流全景
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)

 石部頭首工魚道の設計に当たっては、魚種等に対応できるよう3タイプの魚道を採用することとしました。採用した魚道型式とその特徴は写真-8のとおりです。

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写真-8 左右岸に分散して設置された3タイプの魚道
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)


 また、農業水利施設での新しい試みとして常に県民の暮らしを支えてきたこの石部頭首工の重要性を地域の住民にも再確認してもらうことを目的に、流域のジオラマ、魚道の観察施設のほか、本地区の水事情の歴史を伝える資料展示施設を整備し、郷土理解機能や頭首工の役割を伝えるなど学習の場として流域での利活用も考えているところです。

 毎年多くの住民・児童が、見学に、研修に、遠足でと、石部頭首工を訪れています。

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写真-9 石部頭首工左岸に設置された野洲川流域のジオラマ
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)

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写真-10 石部頭首工左岸の傾斜導壁式魚道に併設された魚道観察施設
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)


icon 8.野洲川沿岸における地域住民との交流



 利水・治水の面で便利になった野洲川であるが、反面、人々の暮らしからは、遠い存在になったことも事実とです。野洲川と地域と人々のふれあいについて住民の意見を聞いた資料によると、野洲川の川部に入れないとか、児童達はほとんど野洲川とふれあう機会が無いと記されているとのことです。

 このため、野洲川沿岸の土地改良区、関係市町および整備工事を実施した野洲川沿岸農地防災事業所では、他の国営事業地域に先駆けて、地域の環境・農業や土地改良施設の大切さを普及啓発するため、協働して地域との交流活動を行い、今も継続実施しています。

 地域交流イベントとしては、「野洲川源流体験」、「水源地域のクリーン活動」、ジオラマを使った「我が町・野洲川の源流等再発見」などが行われています。また、総合的な学習支援として、「小学校での出前講座」、および現地での「ダムや頭首工などの施設見学会」を行い、元気に学ぶ子供さんたちとの交流により啓発の効果を上げています。


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写真-11 地元住民、企業、関係団体の人々が参加した水源地域のクリーン作戦
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)
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写真-12 野洲川ダムで開かれた施設見学会
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)

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写真-13 小学校での出前講座
(出典:国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月 近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所)


icon 9.国営2事業の概要



1.国営土地改良事業「野洲川地区」

(1)受 益 地 (現)守山市、(現)栗東市、(現)野洲市、(現)湖南市、(現)甲賀市
(2)受益面積 3,933ha
(3)主要工事
100
(4)実施時期 昭和14年度~昭和30年度

2.国営総合農地防災事業「野洲川沿岸地区」

(1)受 益 地 守山市、栗東市、野洲市、湖南市、甲賀市
(2)受益面積 3,120ha
(3)主要工事
200
(4)実施時期 平成11年度~平成21年度


引用文献
1.国営総合農地防災事業野洲川沿岸地区事業誌 平成22年3月
  近畿農政局野洲川沿岸農地防災事業所
2.ARIC情報 新たな水辺空間の創造に向けて
  「環境との調和に配慮した事業への道のり(野洲川沿岸地区)」 №68-2003