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1.地域の概要
2.事業の概要
3.事業計画
4.営農状況
5.換地計画の概要
6.事業効果

icon 1.地域の概要



1.地域の概要
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櫻井寺

 1)地域の沿革

 五條市周辺は、約6500年前の縄文時代から人々が暮らし始め、4世紀末には紀州方面から浸透した文化の経路と考えられる鉄器生産・窯業などの技術が定着し、当時の最先端技術を持っていたことが文化財などから推測される。奈良時代から近世にかけては、条里制→寺領→荘園→天領などを経て幕末を迎えることになり、明治維新の先駆けとされる「天誅組」が五條代官所を襲った後、本陣を置いた櫻井寺で知られている地域です。下市町は、大峰修験への道も開かれ吉野金峰山信仰が高まるなど仏教文化・修験道文化の影響を強く受けたところです。この外、名前の通り5日おきに市が立ち、かつては大阪、堺、和歌山より商人が集まり稗、粟、菜種、胡麻、煙草、薬草、丹生紙、吉野漆が商いされた記録があります。西吉野村(現五條市で、以下同じ)は、南北朝時代に南朝の政務が行われたところです。

 2)地域の自然条件

 位置は、奈良県の中西部に位置する五條市、吉野郡下市町及び西吉野村で構成され、地区の中心地である五條市から近畿の心臓部大阪市の中心部までは40kmの範囲です。
気象は、年平均気温15℃、降水量1,500mm程度で、降水分布は一般に7月、8月に少なく6月の梅雨期と9月の台風期に多い、連続干天日数は1969(S44)年に53日の記録があり、平年においても20日前後はたびたび発生し干ばつ被害の起こりやすい気象です。
 地形は、紀の川を中心に左右が次第に階段状に高くなっています。基盤岩の性状から南斜面は概ね急峻で北斜面はやや緩やかな地形です。受益地標高は130mから500mの高低差があります。
 地質は、紀の川沿いに中央構造帯が走り、本地区はこの帯に属し地区の北部ほど変成度が高い地層です。地区の北東部では地表に紀の川の河岸段丘堆積物が見られます。

 3)地域の社会・経済

 人口は、1980(S55)年から2000(H12)年までの20年間においては、人口増加率は奈良県全体で13.9%の増加に対し、本地域では5.1%の減少を示しています。市町村別では、五條市では4.1%の増加、下市町及び西吉野村では23.8%と23.7%の減となっている。この要因として、奈良県全体では純増しているものの地域内では、地方生活圏中心都市に県内移動が多いと考えられます。この指標は老齢化にも連動して五條市の指標は低くなっています。
 土地利用は全体24,300haの内、山林原野が67%で全国的に著名な林業地帯です。農用地が10%(うち約20%が造成畑面積)で主に樹園地です。宅地等が3%で五條市では大阪への通勤圏内であり開発も見られます。その他の分類が20%です。
 交通は、大阪・京都・和歌山・三重方面への要衝に当たり、国道は24・168・370・309号線。鉄道はJR和歌山線、近鉄吉野線が走っています。
 産業(純生産高)は、五條市及び下市町では工業と商業で95%を占め、西吉野村では52%となり、西吉野村は農業が46%で主要な産業となっています。

 4)地域の農業

 農業人口の動向は、1980(S55)年から2000(H12)年までの20年間に28%の減少がみられる。この中でも水田が中心の五條市、果樹園が中心の西吉野村に比べ普通畑中心の下市町の減少が著しくなっています。
 耕地面積3,366haは、1980(S55)年から2000(H12)年までの20年間に31%の減少がみられます。この間に、国営農地開発事業により約476haの換地済みであることから実際の減少より小さな値となっています。
 農業粗生産額は、2000(H12)年に10,910百万円で県全体の19%を占め、主要農業地帯です。主要な内訳は、果実類53%、畜産22%、野菜類13%、米7%、花卉類3%となっています。

 5)五條吉野の柿

 本地域の営農は、畑作地帯でミカンを中心に梅や梨、野菜などを栽培していました。しかし、1921(T10)年に大寒波に襲われミカンが大被害を受けたが、西吉野村黒淵で栽培されていた「富有」柿は被害を受けず立派な果実を実らせました。これをきっかけに西吉野村賀名を中心に柿が栽培され始め、五條市、下市町に広まったものです。柿は、大正当時盛んだった養蚕よりはるかに楽で収入も増加しました。1995(S30)年頃になるとミカンはごくわずかになり、1965(S40)年代のミカン不況で終わりました。
 柿の品種は、富有柿(岐阜県で普及していた甘柿)の植栽が先行し、1977(S52)年頃に全体の75%を占めていましたが、1998(H10)年に50%に変化しました。収穫時期は、11月から12月上旬までで他の品種に比べ一番遅くなります。

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 平核無(ヒラタネナシ:和歌山県で普及していた渋柿)は、戦前から植栽されていたが脱渋技術が不安定だったことから伸び悩んでいました。1955(S30)年頃に西吉野村白銀の農協に炭酸ガスを用いる共同脱渋の施設が作られ、商品性が大きく向上し市場での評価も高まりました。富有柿より収穫が早く収量も多いことからミカンの転作などにより植栽されました。
 刀根早生は、1965(S40)年後半に「平核無」の1樹から早熟な枝変わりが発見され、1980(S55)年に品種登録をされた早生品種で、食味や色合いが優れ、渋柿の持つ果肉の柔らかさとジューシーな感覚が消費者の味覚にマッチし、根強い人気と指示を受けています。
 「刀根早生」の出現により、晩生の「富有」を中心とした柿生産から、収穫期の前進化と労働分散が図られ、さらに、ハウス栽培を行うことにより、7月から半年間に亘り柿が出荷できる産地が形成されました。
 6)樹園地面積の推移

 西吉野村では、終戦直後の自己開墾から始まり1959(S34)年から農業構造改善事業も加わり、1960(S35)年の273haが1970(S45)年に570haと、この10年間で倍増しました。
 その後、国営農地開発事業により約476haが造成され、この大半が県農業振興公社買収型で希望者に売却する手法を用いたことで、基幹的農業労働力を保有する農家の規模拡大に大きく寄与しました。


icon 2.事業の概要



 本地区は、奈良県五條市、下市町および西吉野村の3市町村に広がる山林等を開畑し、果樹作(柿、ぶどう)を導入するとともに開畑のかん水と既成柿園を合わせ防除等を含む多目的畑地かんがいを行って、果樹の濃密生産団地の育成整備と農家経営の近代化を図ろうとするものです。


icon 3.事業計画



 (1)当初計画

 1969(S44)年11月に開拓基本計画樹立申請を受け、1975(S50)年8月に事業計画確定した本事業は、山林等900haを開墾し、果樹園632haの造成と既成柿園1,148haを合わせて1,780haの多目的畑地かんがいを行うもので、造成は、柿園532ha(富有、早生富有、平核無、刀根早生)、施設ぶどう園100haの導入と道路73.3km。かんがい施設は、ダム3ヶ所を新設し220万m3の用水源と1頭首工を確保し揚水機場9ヶ所、用水路57.6kmを計画です。

 (2)第1回変更計画

 事業着手から概ね10年が経過し、農業社会構造の変化並びに長期化する農産物価格の低迷が一部受益者の営農意欲を衰退させ、規模拡大、整備資本投資を阻害する要因となり受益範囲に変動が生じた。また当初農地造成工法は一部階段工を計画していたが事業参加者の要望を勘案して、改良山成工に変更し、機械作業の可能な造成勾配15°以内を目標とし山林等829haを開墾して果樹園593haの造成を行うとともに道路計画を見直すことにしました。
 用水計画にあっては、12年間の観測データに基づき最適消費水量の変更に合わせて水源計画を見直し、ダムを1ヶ所に変更し貯水量を140万m3とした。このことにより揚水機場7ヶ所、用水路117.9kmとし、既成畑の末端かんがい計画をスプリンクラーから給水栓によるホース散水に変更するなどとして、1989(H元)年6月に変更計画が確定しました。

 (3)第2回変更計画

 第1回計画変更後ほぼ10年が経過し、この間の農業情勢の変化及び事業が完了年に近づいたことより、受益面積の見直し、事業費の確定を行い、事業完了に向け第2回計画変更を行う必要が生じ、1999(H11)年9月に三条資格者からの同意徴収を取りまとめた。

 (4)事業内容(第2回変更計画)

 1)関系市町(1市1町1村)
  五條市、下市町、西吉野村(現五條市)
 2)受益面積  1,663ha(農地造成526ha、畑地かんがい1,663ha)
 3)事業期間  1974(S49)年度~2001(H13)年度
 4)事業制度  国営総合農地開発事業
 5)主要工事計画

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 6)関連事業

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icon 4.営農状況



 (1)柿の生産所得

 西吉野村の名目農業総生産額は1970(S45)年の18.3億円から1994(H6)年には34.4億円へ約2倍に増加した。下表から年代別に果実に移行しつつ生産額が増加しています。

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 この果実生産額の上昇は造成地に新植された果樹が次第に成木となり、生産が増加したと見られます。

 (2)西吉野村の柿出荷

 営農労力の分散を図るため複数の品種を栽培することが必要となります。また、出荷量が増加すると価格が下落するという一定の関係が見られます。
 品種別の出荷量と価格の変動は、平たねなし→富有(生)→刀根→富有(冷蔵)の順で小さくなる傾向を受けて、出荷量は1980(S55)年は富有(87.4%)と平たねなし(12.6%)であったが、1983(S58)年から刀根の出荷が始まり富有と平たねなしの出荷量が減少した。また、1989(H元)年からはハウス柿が出荷されるようになった。1995(H7)年の主要品種別出荷量構成は富有(46.2%)、刀根(37.2%)、平たねなし(12.8%)であった。この変化は、価格の供給弾力性が大きい平たねなしと富有が減少し、それが小さい刀根が増加してきたものです。これは生産者、営農指導、出荷戦略の成果で経営の安定に努めています。


icon 5.換地計画の概要



 (1)換地計画を作成するうえでの基本的な考え方

 換地計画は、本農地造成事業の工事計画と並行して定め、事業地域内の農業構造の改善及び土地利用の秩序形成に資するものとします。

 (2)換地区を設定する理由

 計画的な換地処分を図るため、工事の進捗状況、土地所有状況、土地利用計画等を考慮して15の換地区を設定します。

 (3)換地計画樹立の基本方針

  1)従前の土地の地積の基準

 換地交付の基準とする従前の土地の地積は、事業主体の行う実測による地積とする。ただし、国土調査を完了した新住換地区と関係権利者間で合意した牧Ⅰ換地区は登記簿地積とします。
  2)農用地集団化の方針

 集落別、作物別、営農グループ別の集団化を設定し、個人別換地は各個人の従前地の土地に密集した位置となるように配慮しました。

  3)非農用地換地

 霊安寺Ⅱ換地に奈良県果樹振興センター施設用地13,781㎡と雑種地9,610㎡を換地しました。
 (4)土地の評価及び精算の方法

  1)評価の方法

 比例評価方式及び評価採点方式

・従前地の評価は、原則として工事後の土地の総価格を換地交付総地積で除して行いました。
・工事後の評価は、評価・換地委員会を組織して現地踏査のうえ、評価項目(形状・広狭・植栽率・立地条件・日照・通風・土質等)を設けて、各区画ごとにこれを採点して行いました。
  2)精算方法

 条件差差積精算方式
 工事後にもなお残るような著しい土地条件の差と換地交付基準地積に対する換地の地積の増減を生じたものについてのみ精算する方法です。

 (5)換地計画樹立の年度計画等

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icon 6.事業効果



 (1)国営事業の事後評価

 国営総合農地開発事業五条吉野地区は2001(H13)年度に事業完了したことを受け2008(H20)年に事後評価を実施し、その結果を8月に公表しています。その中で、第三者の意見は、

1) 本事業の実施により新たな農地が造成され、柿の生産規模拡大と高品質生産が図られてきている。
 また、造成畑を中心に、担い手農家の規模拡大による経営の安定化が進み、農業後継者の確保が図られている点も高く評価される。
2) 造成畑で新たに栽培が始められたハウス柿は、既成畑で生産されている柿とともに、「奈良の柿」ブランドとして全国屈指の高い評価を得ている。
 今後とも、日本有数の柿の産地として継続的な発展を図るためには、大苗育苗による老木更新などの新しい技術の導入を促進することが望まれる。
3) 今後とも高く評価される柿産地として継続的に発展していくためには、体験型イベントや柿のオーナー制度などの都市住民との交流や地産池消を推進し、地元農家や関係機関が一体となり地域活性化を図ることが望まれる。
4) 本地区の農業生産を維持・発展させていくためには、本事業によって造成された施設の適切な維持管理を図るとともに、既成畑におけるかんがい施設等の基盤整備を推進していく必要がある。
 とくに、基幹的な水利施設の維持・補修については、関係機関が連携して施設の長寿命化対策に取り組むことが望まれる。
 (2)近年の状況

1)奈良県では、五条吉野地区の柿を「リーディング品目」として生産の拡大等の振興策を図る作物としています。

2)JAならけんでは、西吉野・五条統合選果場に真空パックの機械を導入し、冷蔵柿出荷量及び輸出量の増加を図っている。輸出は2005(H17)から本格的に開始され、近年はタイ向けの輸出が好評です。

3)営農は、県内でも若い担い手が多い地区で、2014(H24)年度奈良県新規就農者の約4割が五条吉野地区に就農しています。

4) JAならけん西吉野柿選果場で毎年11月下旬の日曜日に「柿の里まつり」が次世代を担う若い柿生産者組織「JAならけん西吉野柿部会青年部」の企画で、すべて手作りで実施され、5,000人もの方々が訪れます。


【参考引用文献】

1.五条吉野開拓 事業誌   近畿農政局
2.農林水産省 農村振興局ホームページ
3.五條市ホームページ「五條の柿だより」№071イベント情報(柿の里まつり)