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1.日本最大級の自噴地帯
2.清水にしか棲むことができないハリヨ
3.数十ヶ所の輪中
4.輪中内の取り決め「株井戸制」
5.マンボと称する地下水利用
6.木曽三川で最もかんがい用水が不足する地域
7.開発の進行等に対応する新たな水
8.西濃用水農業水利事業の概要
9.西濃用水第二期農業用水事業の概要

icon 1.日本最大級の自噴地帯



 日本列島のほぼ中央で、岐阜 県の南西部に位置する西濃地域 における水利用の特質の一つと して、大垣自噴帯による被庄地 下水利用があります。
 この自噴帯は日本でも最大級の規模のもので、自噴帯の範囲は東部と南部を木曽川に、西部は養老山塊に北部は揖斐川扇状地の中央部安八郡神戸町と、本巣郡北方町を結ぶ逆三角形の地域で、良質な地下水が豊富で古くから「水の都」といわれ、その中心が大垣市であります。
 自噴帯を貫流する河川には長良川と、平野部に至って伏流する粕川、薮川、相川、牧田川、津屋川を合流する揖斐川があり地域東端に沿う木曽川と相接して伊勢湾に流入しています。
 大垣自噴帯の水源はこれら木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川が山地から平地に移行する沖積平野で浸透したものが、この地域に被庄地下水として自噴するものであります。

 自噴性被圧地下水はこの地域の重要な用水源としてかんがい用水、家庭飲料水、工場用水等に広く利用されてきました。
 自墳井戸の深度は(5~200m)で竹管あるいはガス管を使用し内径は1~2 .5寸程度の小口径のものが多く、その井戸の数は3万本に及ぶといわれ、自噴量は小口径で深度が15m以下では0 . 5l/S以下、70m以深で1~ 8l/Sといわれているが自噴帯の中央部ほど多量で外縁部に向って減少します。


icon 2.清水にしか棲むことができないハリヨ



 大垣市は、平成20年に良質で豊富な地下水や森林、里山など美しく豊な緑を誇りに思い、将来の世代へと引き継いでいくため、水環境保全の象徴として市の魚をハリヨと制定しました。
 湧水などのきれいな水にしか棲まないハリヨは、体長5cmほどのトゲウオ科の小魚で、現在は滋賀県北東部と岐阜県西南濃地方のみ分布している希少魚であり、環境省により絶滅危惧ⅠA類に選定されており、また、岐阜県では指定希少野生生物に指定されています。
 大垣市の生息地である西之川町のハリヨは県の天然記念物に、曽根町・矢道町のハリヨは市の天然記念物に指定されています。
 形態的な特徴としては、背びれの前に3本、腹びれに一対、尻びれに1本のとげがあり、体側には4~8枚の鱗板がある。全長は5~7cmほどで、繁殖期のオスは婚姻色が生じ腹側が朱色に染まり、体側は光沢のある青色になります。
 生息環境としては、湧水や自噴水などを水源とするような、流れが緩やかな水路などで、一年を通じて水温が15℃前後の低水温で清澄な水を好み、底質は泥底から砂泥底、営巣の材料とエサの供給源ともなる水草が繁茂していることが生息条件となります。
 このような生息条件が必要なため、かつては生息域が広く分布していたが、湧水や自噴水の枯渇、泥水等の流入などにより水質が悪化し、急速に生息地を減らしたが、今日、大垣市では豊富で良質な地下水を利用した修景整備などを行い、ハリヨの生息域も増えつつあります。



icon 3.数十ヶ所の輪中



大垣輪中と内部小輪中と周辺の主な輪中並に排水施設等

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 豊富な水の恵みを受ける一方、この地域の歴史は、洪水との闘いとは切っても切り離せない関係にあります。
 木曽三川が並流する本地域では、洪水被害に悩まされ、人々が洪水から自分たちの田畑や家屋を守るために、村の周りに堤防を巡らせた「輪中(わじゅう)」を造ってきました。
 木曽三川には、明治の初めには八十数ヶ所の輪中が濃尾平野にあったそうです。
 岐阜県においては、北は岐阜市、西は養老山地の麓の養老、南は旧河口付近に至るまで実に広い範囲でした。  本地域には数十ヶ所の輪中があり代表的な輪中が「大垣輪中」であります。
 また、徳川時代に尾張国内を乱流していた木曽川の支流を悉く締め切りました。これが即ち尾張藩の御囲堤であります。
 これにより、美濃側の築堤は種々なる制限が加えられました。
 最も重制圧は河川の堤防高さは御囲堤より3尺低くすべしと厳命されたことです。
 この御囲堤により、岐阜県側では水害が絶えないことから、特に輪中が発達したと言われています。
 輪中の中にある集落では、高く石積みをした土地の上に母屋を建て、さらにそれよりも高い場所に土蔵などを設けて家財や食料、洪水の際に避難するために用いる船(上げ船)などを保管した水屋を建て、非常時に備えました。
 また、輪中の南部の低い地域では排水が悪く、収穫に悪影響が出るため、土地の一部を掘って別の場所に積み上げ、そこで稲作を行う「堀田(ほりた)」が作られ、掘った場所は「堀りつぶれ」 と呼ばれる水路として、収穫した作物を運ぶために利用していました。
 このように、洪水から生活を守るための人々の知恵が輪中地域独特の地域社会を生み出すことになったのです。





icon 4.輪中内の取り決め「株井戸制」



 竹管さえ打込めば自由にかんがい水が噴出していた自墳井戸をめぐり、水について鋭敏な輪中地域では、この地域特有な「株井戸制」といった変わった用水利用慣行が長い間守られてきました。
 輪中民は、外に対しては水に対して同一利害関係にたって対処してきたが、内部では高位部にある上郷と低位部にある下郷とは内水に対する利害がたえず相反し対立していました。
 即ち、上郷では排水については有利な立場にあるが、かんがい用水には恵まれずそのために自墳井戸を掘って田畑をかんがいしていました。
 下郷ではこれと全く逆の立場となり、上郷の用水悪水がすべて下郷に及びそのために下郷は内外からの水の脅威をうける結果となりました。
 輪中に於いては水害を守るのと同様に用水の確保は重要な生活権でもありました。
 雨水はうけるが井戸水はうけないという下郷、このため上・下郷の間に利害の対立による紛争が絶えなかったが、上郷、下郷は輪中内の水の調節を図り紛争の解決に努めました。
 これが「株井戸制」であります。
 輪中上下両郷の井戸の数を定めてこれを両者の各村に配当した、そして一本の井戸に対して一定の株金を徴集してこれを下郷の排水用の悪水路の改善とか排水樋管の補修を行ってお互いの立場を尊重しました。
 また、新たに水の使用権を得ようとすれば新しく井戸株を持つものとし、隠し堀りは厳禁され、罰金制度まで設けられていました。

icon 5.マンボと称する地下水利用



 西濃地域の垂井町や関ヶ原町には、マンボと 称する地下水利用方法があります。
 マンボとは、横井戸のことで自然勾配で横井戸を掘り、集水してかんがい用水とするものであり、マンボは相川扇状地の主として水田地帯の地下3~5mの位置に一般的には2~300m、大きいものは800mにも及ぶ横井戸を掘るもので、水田かんがいされた水の地下浸透を再利用する形態をとっているので大量の水利用は望めませんでした。

相川沿岸地域のマンボ利用状況表
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icon 6.木曽三川で最もかんがい用水が不足する地域



 本地域は殆んどが揖斐川水系に属し、次表「木曽三川の概要とかんがい用水」の利用の実態から考察できるように、揖斐川は木曽川の流域の35%に満たないのにかんがい用水の利用量は木曽川のそれと同じであり、流域的には殆んど変りのない長良川の1.9倍に相当する関係上、木曽三川で最もかんがい用水が不足する地域で古来より水利慣行の強い、水争いの多い地域でありました。

木曽三川の概要とかんがい用水
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icon 7.開発の進行等に対応する新たな水



 本地域の水田用水は古くから揖斐川とその支流及びため池、地下水等に依存してきましたが、揖斐川の扇状地に拓けた地域であるために、かんがい用水の地下への浸透がはなはだしく、河川は渇水量が小さく、ため池や地下水等の水源も不安定であるため常時旱魃地帯でありました。
 そのうえ近年の地域発展等に伴い地下水利用が増え、揖斐川本流の河床低下も加わって地下水が低下し、ますます水不足に悩まされるようになってきました。一方取水施設の老朽化により維持管理費が増大しており、地区内用水路の末端の未整備、基盤整備の遅れが農業近代化の阻害要因となっていました。
 このため、昭和39年に完成した揖斐川上流の横山ダム(特定多目的ダム)に29,000千m3の水源を確保することによって取水の安定と増強を図ります。
 また、昭和43年に着手した西濃用水農業水利事業により揖斐川の中流部に岡島頭首工を新設し最大23.35m3/s取水して受益地区の用水安定を図ります。
 用水路としては、揖斐川の左岸では揖東幹線2.2kmの改修を行い。右岸では導水路1.4km、揖西幹線11.6kmの改修、西部幹線水路19.4kmの新設及び大垣、山王下立、山田、石畑、平野の5支線の新設改修を行うとともに関連事業のほ場整備事業を実施することにより農業経営の近代化と営農の合理化を図るものであります。
 なお、岡島頭首工と西部幹線については、新設の施設であり新規利水を含むことから、技術的にもさることながら、その位置や路線に対する地元の不安解消、漁業権問題の解決、さらに水利慣行の調整等、関係者の並々ならぬ努力が傾注されたものであります。
 さらに、西濃用水農業水利事業により整備された施設は、築造後約30年以上が経過しており、造成施設の老朽化により農業用水の安定供給に支障が生じていることから、平成21年に着手した西濃用水第二期農業用水事業により、岡島頭首工や幹線水路及び水管理施設の改修を進めております。

icon 8.西濃用水農業水利事業の概要



(1)事業工期
  昭和43年度~昭和58年度
(2)受益市町村
大垣市、揖斐川町、大野町、池田町、神戸町、垂井町、養老町、上石津町(現:大垣市)
(3)受益面積
 7,080ha
  (内訳) 水田:7,080ha
(4)主要工事
 岡島頭首工(最大取水量23.35m3/s)
 揖東幹線水路(2.2km)
 導水路 (1.4km)
 揖西幹線水路(11.6km)
 西部幹線水路(19.4km)
支線水路(大垣、山王下立、山田、石畑、平野の5支線:5.1km)
(5)関連事業等
横山ダム(特定多目的ダム)
建設省施行の横山ダムに、かんがい用水の水源29,000千m3を確保する。
なお、現在は徳山ダム完成に伴い、かんがい機能を徳山ダムに移行している。


icon 9.西濃用水第二期農業用水事業の概要



(1)事業工期
 平成21年度~平成26年度(予定)
(2)受益市町村
 大垣市、養老町、垂井町、神戸町、揖斐川町、大野町、池田町
(3)受益面積
 5,349ha
  (内訳) 水田:5,249ha
 普通畑: 11ha
 樹園地: 82ha
(4)主要工事
岡島頭首工:堤体改修、取水設備改修、附帯施設改修(中央魚道)
揖西幹線水路:改修延長0.2km、分水工3ヶ所改修
西部幹線水路:管水路改修3.7km
揖東幹線水路:管水路改修0.1km
水管理施設:中央管理所(親局)、子局改修

参考文献
・農林水産省東海農政局西濃用水農業水利事業所「工事誌」
・農林水産省東海農政局ホームページ
・岐阜県大垣市役所ホームページ