top01

1 地区の概要
2 事業に至る経緯
3 事業の実施
4 事業の効果と今後の課題について

icon 1 地区の概要



1)地区の位置
 西濃用水第二期地区は、岐阜県の南西部、揖斐川沿いに位置する、大垣市、養老郡養老町、不破郡垂井町、安八郡神戸町、揖斐郡揖斐川町、大野町及び池田町の1市6町にまたがる地区です。

001

地区の位置

2) 地域の歴史
 この地区のある西濃地域は、古くから東西交通の要衝として発達し、東海地方最大級といわれる昼飯大塚古墳をはじめ、条里制の遺構や、美濃国府跡などの史跡も数多く残っています。
 周辺には、壬申の乱や、源平、関ヶ原の合戦など歴史の変換点となった舞台も多く残ります。
 また、大垣は、松尾芭蕉の奥の細道結びの地としても知られています。

 近年では、豊富な地下水を利用した繊維産業を中心にした近代工業が発展し、電子、機械などの製造業をはじめ、運輸や、情報関連産業など様々な企業が活躍する岐阜県有数の産業都市としても発展しています。

3) 地域の農業
養老山系を背景に広がる平野部を中心とした西南濃地方と、北部の山麓に開けた扇状地形を中心とした揖斐地方とからなるこの地域の農業は、主に水稲と麦・大豆を組み合わせた大規模な土地利用型農業が展開されており、岐阜県の主要な穀倉地帯となっています。
また、温暖な気候と恵まれた地形条件を生かしたトマト、キュウリ、イチゴ、花木などの施設園芸、ホウレンソウなどの露地野菜、花き、ナシなどの果樹栽培などのほか、肉用牛、酪農、要論、養鶏などの畜産も盛んです。

004

icon 2 事業に至る経緯



1) 農業と農業水利の発達の歴史
 揖斐地方に属する地区の北部は、揖斐川とその支流によって形作られた扇状地形が多くを占めています。
 農地は、条里制によって古くから整備されていましたが、区画が小さく、大型機械が使えないため、農業の生産性を向上させるうえでの阻害要因となっていました。
 用水は、近くの河川から取水し、灌漑されてきましたが、いずれも扇状地特有の砂質土壌のためにその多くが地下に浸透し、慢性的な水不足に悩まされてきた地域でした。
 西南濃地方の南部では、揖斐川などの氾濫によって形成された低平地が多く、集落や農地を守る「輪中(わじゅう)」と呼ばれる土地利用が行われてきた地域です。
 輪中とは、大きな河川の下流域にある集落や農地を洪水から守るために、堤防を築いて周りを囲んだもので、西濃地方では80ほどの大小の輪中がありました。
 輪中のなかでは、周りの土を掘って盛り上げた「堀田」と呼ばれる櫛状の土地で工作が行われ、土を掘った後の「掘りつぶれ」と呼ばれる水路を使い「田船」によって人や荷物を運んでいました。
 農地は排水が悪く、湛水しやすい一方で、用水は、地区内の中小河川や、「ガマ」と呼ばれる湧き水に頼る不安定な状況でした。
 堀田での米作りは、収穫量が低いだけでなく、「どべあげ」などの保全作業にも大変な手間がかかる大変な作業でした


撮影大垣氏輪中館 河合孝氏撮影


 また、西南濃地方の西部に位置する垂井町では、山麓などに「マンボ」と呼ばれる横井戸を掘って用水を補給しており、かつては、百か所以上ありましたが、いずれも水量が少なく、維持補修にも大変な手間がかかっていました。


 このように西濃地域では、それぞれの地理や歴史を踏まえたかんがい設備が発達し、特徴的な営農が行われてきましたが、これらの水源はいずれも不安定で、農地区画が小さいことなども相まって、農業の近代化を図るうえでの大きな障害となっていました。

2) 事業に至る経緯
① 前歴事業:西濃用水農業水利事業

 このような状況を踏まえて東海農政局によって地域の農業用水を安定的に確保するために、昭和43年度から昭和58年度まで西濃用水農業水利事業が実施されました。
 事業は、揖斐川上流に建設される特定多目的ダムの横山ダムに水源を確保し、中流の岡島地点に岡島頭首工と、そこから延びる幹支線水路40kmを建設し、最大23.35m3/Sの農業用水を取水、配水して、して農地7,080haをかんがいするものです。
 更に、この事業を契機として、岐阜県営の圃場整備事業や湛水防除事業など様々な農業基盤整備事業が実施されたことで、大型機械の導入や、規模の拡大、高収益作物の導入などが進み、地域の農業形態が大きく変わりました。


② その後の変化と西濃用水第二期農業水利事業の着手
 施設の建設から30年以上が経過して平成20年代に入ると、地域の市街化が進行するなど施設を取り巻く状況が大きく変化してきました。
 施設の老朽化も進み、漏水事故やそれに伴う道路の陥没、工場用地の沈下などが発生して、維持管理に多大な経費と手間がかかるようになってきました。
 このため東海農政局では、平成21年度から西濃用水第二期農業水利事業に着手して老朽化した施設の改修を行い、農業用水の安定供給を図るとともに、施設に起因する災害の防止と維持管理の軽減を図ることとしました。
 事業では、前歴の西濃用水農業水利事業で造成した施設のうち、特に緊急性の高いものの改修を行うこととしました。
 岡島頭首工では、エプロンやゲート部で局部的な劣化が進行していることから、洪水などによって損傷が拡大する恐れのある個所の改修、用水路では、劣化によって漏水や、補修費がかさんでいる区間及び、周辺の宅地化が進み、漏水によって二次災害の生じる恐れのある区間の改修、更に水管理施設は、交換部品の供給が停止され、動作不良が多発していることから、全面的な改修を、それぞれ行うこととしました。
 このように事業の対象を緊急性、重要性の高い施設に絞り、改修も既存の施設を出来るだけ活用することによって事業を短期間で終え、効果を早期に発現させることとしました。
 (事業の目的)
 ・営農を安定して行うための農業用水の安定供給
 ・農業水利施設の補修に係る維持管理費の軽減
 ・市街地における農業水利施設からの漏水によって起こる二次災害の防止
 (事業概要)
・関係市町:(1市6町)大垣市、養老郡養老町、不破郡垂井町、安八郡神戸町、
 揖斐郡揖斐川町、大野町及び池田町
・受益面積:5,342ha(うち水田5,249ha、畑11ha、樹園地82ha)
・工期:平成21年度から平成26年度
・総事業費:50億円
・主要工事:岡島頭首工(改修)1式、揖西幹線水路(改修)0.4km、西部幹線水路 
 (改修)3.9km、揖東幹線水路(改修)0.1km、水管理施設(改修)1式

012

(事業概要図)

icon 3 事業の実施



 実施に工事に際しては、予め施設管理者等との調整、打ち合わせを十分に行うことによって、手戻りの作業を無くし、計画的に進めることを徹底しました。
 更に、新技術、新工法を積極的に取り入れるなどして、経費の節減を図りました。

1)  岡島頭首工の改修
岡島頭首工は、一級河川木曽川水系揖斐川に位置する昭和51年に築造された一部可動堰、一部固定関のフローティングタイプの頭首工です。堰長は171.0mあり、洪水吐2門、土砂吐1門のシェル型ローラーゲートを持ち、取水口を両岸に設けている他、右岸と中央部にそれぞれ階段式の魚道があります。
① 堰柱の耐震補強
 頭首工の耐震性は、近年頻発している大規模な地震動を考慮して診断した結果、慣性力が集中する第1及び第4堰柱のせん断耐力が不足していることが明らかになりました。
 対策は、河川の通水面積を阻害せず、かつ安価な、「せん断補強RMA工法」を採用しました。この工法は、既設構造物の躯体内に補強筋を挿入して、せん断耐力の向上を図るもので、定着材に「RMA」と呼ばれるカプセルタイプの無機系モルタルを使用したものです。


② 土砂吐エプロンの改修
 改修前の土砂吐エプロンは、左岸側で特に摩耗が激しく、鉄筋が露出し破断している箇所もありました。
 従来、衝撃を受ける箇所には、弾性板張工法等を採用していましたが、より経済的に優れ、強度的にも通常のコンクリートに比べて約5倍の耐摩耗性と耐衝撃性を持つ「超高強度繊維補強コンクリートパネル工法」を採用しました。
 この工法は、極めて緻密なコンクリートに高張力鋼繊維を配合して高い靭性を持たせたコンクリートパネルを、アンカーでエプロン部に固定させたものです。
  これによって経費の節減だけでなく、工期も大幅に短縮されました。


③ 中央魚道
 中央魚道は、全面越流型の階段式魚道でしたが、摩耗や損傷が著しいことに加えて越流部の流速が速く、遊泳力の弱い底生魚などは遡上が難しいこと、魚道の上り口が見つけにくいことなどの課題があり、改修を行う必要がありました。
 新しい魚道は、環境配慮計画に従い、代表的な「アユ」、「カマツカ」、「シマヨシノボリ」、「フナ」の4種類の魚が遡上しやすいようにしました。
 魚道の構造は、学識経験者の提言を受けて、実績や遊泳魚に対する知見のある「階段式」と、底生魚が昇りやすい「礎石付き斜路式」の2つのタイプを併設し、その両側に魚道の登り口を見つけやすくする呼び水水路を設けた、複合型としました。 


2) 幹線水路の改修
① 西部幹線水路
 西部幹線水路の各サイホン部は、建設後40年以上が経過しており、継ぎ目から漏水するなど、老朽化が著しく進んでいました。
 加えて、路線の周辺では都市化が進み、パイプラインが埋設されている道路が拡幅されて交通量が増えるなど、施設を取り巻く状況が大きく変化してきています。
 このため、既設水路の破損などに伴って二次災害が発生する恐れが高い区間について、改修を行うこととしました。
 改修は、管更正工法のうち、当地域において最も経済性に優れた「鞘管工法」を採用しました。挿入する管種は、上流部の池田サイホンを始め大半の路線では、鋼管を使用していますが、幹線水路末端の橋爪サイホンでは、断面を大きく縮小することができたため内挿用薄肉FRPM管を使用し、経費の削減を図りました。

② 小谷川水管橋
 西部幹線水路の中流部に位置する小谷川水管橋は、耐震照査の結果、現行の耐震基準を満たしていなかったことから、伸縮可撓管、落橋防止装置を新たに設置するとともに、基礎の増杭を行いました。
 基礎の増杭に際しては、近傍の鉄塔に影響が及ばないよう、プレボーリングによるPHC杭を採用しました。

③ 揖西幹線水路
 建設から30年以上が経過している揖西幹線水路は、宅地化の進行などによって雨水排水やごみの流入が増えて水質の悪化が進み、各分水ゲートの操作にも影響を及ぼしており、溢水の恐れなど、施設の適切な維持管理が難しい状況でした。
 このため、近接する宅地に被害が及ぶ恐れのある脛永開渠の区間では、暗渠化して用水と排水を分離して、排水やごみの流入を防ぎました。
 また、ゲート操作に支障をきたしていた池田、新屋敷、平野の各分水工では、水位の調整方式を見直してゲートの改修などを行いました。

3) 水管理施設の改修
 水管理施設は、機器の製造後約30年が経過し、老朽化に伴う動作不良が頻発し、交換部品の調達も困難な状況でした。
 また、頭首工付近では、落雷による電気設備の破損も発生しており、対応を急がれていました。
 このため、老朽化した中央管理所施設を全面的に更新して、頭首工での取水管理と水路の送水管理システムとを一元化することとともに、情報発信の子局を追加して遠隔操作箇所を拡充することによって、頭首工から幹線水路まで通した一体的な管理体制を構築して、効率的で安定したシステムを整備しました。
 伝送回線についても光ケーブル、NTT専用回線、無線モデム、MCA無線を各施設に合わせて採用して回線システムの安定性を向上させました。
 また、岡島頭首工の取水口では、流入ごみを大幅に減らす横掻回転式除塵機を設置して、ごみ処理の負担を軽減しました。
 これによって、適正な水配分、施設の安全管理、施設管理労務の省力化が図られました。

4) 再生可能エネルギーの導入
  再生可能エネルギーの導入については、小水力発電設備及び太陽光発電設備を整備しました。
 このうち、小水力発電については事業着手前の概略検討で採算性の面から導入は困難と判断されていましたが、着手した後に「再生可能エネルギー固定価格買取制度」が創設されたことによって採算の目途がついて揖西発電所と揖東発電所を建設することとしました。
 また、太陽光発電についても採算性がとれることから、岡島発電所を建設することとしました。

① 揖西発電所
 揖西発電所が設置される西部分水工は、通水の時期によって落差や流量が大きく変動します。
 水車形式は、既設水路の形状を変えることなく、落差及び流量の変動に対応できる能力を持ち且つ、落差工など既存の施設との取り合いや維持管理がし易いことなどを考慮して、最も経済的な「縦軸カプラン水車」を選定しました。
 この水車は、既設の落差工部に直接据え付けて、落差の変動にはランナー翼、流量の変動にはガイドベーンを各々自動で作動させて広範囲の流況変化に対応できる設備です。
018

(揖西発電所模式図)

② 揖東発電所
 揖東発電所は、揖東西郡分水工の転倒ゲート上流で分水し、新設した発電用水槽の落差を利用して水車を回し、バイパス放水路を通して下流水路に合流させる構造としました。
 発電水量を非かんがい期の通水量に合わせて、落差や流量の変動のない一定とすることによって、発電機構を簡潔化した安価な「鉛直らせん水車」としました。

③ 岡島発電所
 岡島発電所は、建物、樹木、山陰、電柱、看板等の受光障害がないこと、保安対策が容易であること、非常用電源の受電が容易であることを考慮して中央管理所敷地内に設置することとしました。
019

(岡島発電所太陽光パネル)

これら再生可能エネルギー施設の導入によって、売電によって生じた収入を施設の電力料及び維持管理費に充てて維持管理費を軽減することと合わせて、管理作業に伴う二酸化炭素排出量を削減して、環境への負荷を低減することとしています。          

icon 4 事業の効果と今後の課題について



1) 事業の効果について
 これまで述べてきた対応によって事業は、当初の予定通り、平成26年度に終えることができたほか、完成した施設についてその都度、管理運用を開始することによって、効果を逐次、発現させることができました。
 事業を円滑に進めることができた要因として、技術的な面では、改修の対象を緊急性、重要性の高い施設に絞り、既存施設を補強するなど出来るだけ活用したことに加えて、計画当初には十分に普及していなかった新技術、新工法を積極的に取り入れて、経費の節減や工期の短縮を図ったことが挙げられます。
 また、事業の進め方では、実施に際して、予め施設管理者等との調整、打ち合わせを十分に行うことによって、手戻り作業を無くし計画的に進めることを徹底できことに加えて、水管理施設の改修や小水力発電設備等の導入によって、維持管理費が軽減され効果が実感できたことで、地元土地改良区・関係市町の事業推進意欲が高まったことなどが挙げられます。
 事業によって、得られた効果は以下のようなものがあります。

① 維持管理費の軽減
 改修によって幹線水路の漏水量が減少し、補修などの経費が軽減されました。
 維持管理費のうち、漏水補修等の臨時的な施設補修費は、事業実施前では増加傾向でしたが、事業が始まった平成21年度以降は減少してきており、特に突発的な漏水事故による緊急的な補修は、平成22年以降0件となっています。
020

(西濃用水土地改良区連合の年度別施設補修費)

② 農業用水の安定供給
 施設の耐震化を図ったことや、老朽化施設を改修したことによって、漏水事故や断水の恐れが無くなり、加えて、水管理施設を更新して配水管理を効率化したことによって、農業用水を安定して供給できるようになりました。

③ 環境への配慮
 岡島頭首工中央魚道のアユの遡上数は、改修前の平成24年度では約93千匹でしたが、改修後の平成25年度には約237千匹と大幅に増加しています。
 また、頭首工周辺ではカマツカやアカザなどの底生魚が、工事前と同様に生息していることが確認されました。

(岡島頭首工に生息する魚類)

④ 再生可能エネルギーの活用による二酸化炭素排出削減効果等
 小水力や太陽光の再生可能エネルギーによる発電設備を整備することによって、二酸化炭素の排出量が一般家庭72世帯分に相当する年間約380tが削減され、併せて維持管理費も年間約2千万円、率にして約74%が軽減されました。

2) 今後の課題
 今回は、老朽化した施設のうち特に緊急性のある施設のみ改修しましたが、将来にわたってこの地域の利水運用を円滑に行い、農業生産活動を維持、発展させていくためには、残された施設について今後とも、時代に合わせた保全対策や整備を行っていく必要があるものと考えます。
 既に、東海農政局では、平成29年度から、河川との供用区間に係る接続水路の新設及び福田頭首工の耐震化対策などを柱とした国営かんがい排水事業(耐震対策一体型)「西濃用水第三期地区」の調査を開始しています。
 こうした取り組みとともに、本事業で採用した多くの新技術、新工法についても、日常の管理実態を含めた検証を重ねて技術革新を図ることによって、この地域の農業を発展させ、牽いては、農業農村整備全体の発展にもつながるものと期待します。

024

(岡島頭首工と西濃地域)