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わが国最古の歴史書『古事記』には、四国に関する謎かけのような記述がある。


イザナギ、イザナミの夫婦神が日本という国を生むくだり。まず彼らは淡路島を生み、次に四国を生む。

「この島は、身[み]一つにして面[おも]四つあり」と続く。

「面ごとに名あり。伊予の国は愛比売[えひめ]といい、讃岐の国は飯依比古[いいよりひこ]といい、阿波の国は大宣都比売[おおげつひめ]といい、土佐の国は建依別[たけよりわけ]という」(現代表記に修正)。

伊予(愛媛)の愛比売[えひめ]は“可愛らしい女”。

讃岐(香川)の飯依比古[いいよりひこ]は“米をつくる男”といった意味か。

阿波(徳島)の大宣都比売[おおげつひめ]。いわば“食物を掌[つかさ]どる女神”、産物の豊かさを表している。

土佐(高知)の建依別[たけよりわけ]は“雄々しい男”といったイメージであろう。


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さほど大きくもない島の4つの際立った個性を、8世紀に編纂[へんさん]したとされる古事記は、簡潔かつ優雅に言い表している。

それにしても、なぜ「この島は、身[み]一つにして面[おも]四つあり」なのか*。


確かに、この島のほとんどは険阻[けんそ]な山塊をなし、狭い平野部は海沿いに散らばっている。

したがって、陸路による四辺の往還[おうかん]は難しかった。

また、瀬戸内沿岸は極端に雨が少なく、中央の山地、太平洋側はともに名高い多雨地帯。

それぞれの地域の気候・風土は大いに異なる。

四つの個性が育っても不思議ではない。


話は、いきなり昭和に飛ぶ。

「身一つにして面四つあり」は後述する吉野川総合開発計画で、浮上することになる。


昭和37年、四国財界で構成される有力組織「産業計画会議」が経済企画庁の依頼で作成した報告書の“はしがき”に次のような箇所がある。

「四県の争いが四国の開発を遅らせていることは、疑うことのできない事実である。しかも四県がおのおのその利益にこだわって争いを続ける限り、今後も、四国の経済的地位の向上は望めない」。

そして、吉野川を“大きな果実”と表現し、以下に続く。

「この背中合わせにつながった四人は、実は背中には大きな果実を背負っている。(中略)これが四人の争いのもとであるばかりでなく、四人は個々別々に外にばかり向いていて、お互いに協力しようとしない」。


-何故なのか。この謎を解くため、


まず”大きな果実”吉野川をめぐる各県の歴史を概観してみよう。




※四国はそんなに大きな島ではない。香川、徳島、愛媛と3県の面積を合計しても、岩手、福島、新潟、長野県の1県より狭い。


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