大分県:大野川水系

富士緒井路の白水ダム(大分県竹田市次倉)

水利の技術が生んだ芸術作品

 大野川上流の大谷川に「白水ダム」と親しまれる農業用溜池「白水溜池堰堤・水利施設」がある。
 白水ダムで取水された農業用水は、富士緒井路16kmを通り、小富士山(457m)や雨乞峠や保全寺山などの山々に繋がる丘陵や台地上にある竹田市片ケ瀬地区・大野郡緒方町軸丸・上自在の一部・小富士地区の凡そ288ha余の水田と畑地を潤している。もっとも、幹線16kmのうち12kmが隧道である。

 白水ダムは昭和7年に着工し、同13年に完成した。
 築造にあたり、この地方特有の柔らかな阿蘇溶結凝灰岩や火山灰質の土壌が障害となって立ちはだかった。
 設計にあたった大分県土木技手の小野安夫は、堰き止められた水が落下する時、川底の凝灰岩では落水の水圧に耐えきれないと判断。落水の流速を弱める為に、壁面を滑らかな曲線に仕上げ、堰堤から溢れ出た落水を柔らかく受け流す形状を取り入れ、左岸部には半円状の小滝を階段状に幾重にも重ねて水圧を分散させ、さらに目の粗い凝灰岩の切石を使うことで、落水を水泡状にして、水圧を減殺させたのである。
 小野は設計にあたり、同じ地質ながら滝壺を形成しない大分県九重町の竜門の滝に着目し、これを観察して設計したのだという。
 活き魚の鱗のような水模様を描いて落水する白水ダムは、まさに水利の技術が生み出した芸術作品である。


白水ダム。落水の流速を弱める為に、壁面を滑らかな曲線に仕上げ、左岸部は半円状の小滝を設けて水圧を分散している。