さて、こうして岡山平野の干拓の歴史を粗々[あらあら]と振りかえると、私たちはそこに名状[めいじょう]しがたい感慨のようなものを覚える。人間の営みと自然の営みとの絶え間なき拮抗[きっこう]とでも言えようか。
ある課題への闘いがその地の繁栄を生み、その繁栄がまたより大きな課題を生む。社会の発展とは、そうした歴史の力学上に築かれるものであろう。
今、私たちの新たなる闘いは、“自然との共生”という易しい言葉で言い表されよう。
しかし、先人の偉大な遺産をどう守り、どう自然と調和させていくか。その闘いは決して易しいものではない。
とりわけ世界第2位の人造湖・児島湖、そして、それを取り巻く広大な干拓農地。それらの規模もさることながら、湖や農地の持つ多面的機能は、岡山平野の計り知れない財産である。
この児島湖と干拓農地の再生を図るため、農林水産省の手により、以下の事業が進められている。
■岡山海岸保全事業
締切堤防の改修による農地、建物、道路等の安全確保(昭和55年~平成13年予定)
■児島湾周辺農業水利事業
用排水施設の再編整備による排水機能の強化・汎用耕地化・用水の安定供給(昭和61年~平成15年予定)
■児島湾沿岸農地防災事業
児島湖の底泥浚渫[しゅんせつ]、干潟造成による水質改善(平成4年~平成15年予定)
さらに、こうしたハード的整備だけでなく、豊かな自然と生態系の保全回復、うるおいとやすらぎに満ちた水辺景観や親水空間の創出、歴史的建造物や祭りなど文化の保全・継承など、総合的な環境改善への取り組みも始めている。
湖の危機は、都市化の進展や生活スタイルの変化だけによるものではない。この地の農業もまた、高生産性を目指すばかりではなく、環境保全型、持続可能な農業との両立が強く望まれている。
美しい水辺と緑豊かな田園空間 ――― 農家や地域住民だけでなく、多くの流域住民がパートナーシップを組んで築き上げていくことが、何よりも重要なのではなかろうか。
挑もうではないか ――― 私たち自身のために、次世代の子供たちのために、そして、岡山平野を築いてくれた幾万という先人たちのために。