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言うまでもなかろうが、この事業によって湖北平野は県下有数の穀倉地帯となった。

湖北農業は米が圧倒的である。平成18年度時点の水田率は平均約93%、農業産出額でも約83%を占める。農家1戸当たりの耕地面積は、湖北町が県内1位(2.11ha)、高月町が3位(1.82ha)。堂々たる水田王国である。


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icon健全な農の継承


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さて、そろそろ現在実施している事業のことにも触れなければなるまい。

「国営新湖北土地改良事業」の目的は、この平野最大の歴史的遺産を次世代社会に継承することである。歴史的遺産とは旧事業で完成した水利システムだけではない。古代から綿々と造られてきた農地や網の目のような水路群。そして「観音の里」と呼ばれる詩趣に富んだ風土。


風土とはその土地の自然と人の暮らしによって醸成されるものであり、農とのかかわりが最も大きい。健全な農を継承することも事業の大きな目的である。


icon水路の様々な役割


また、水路は単に水田のためだけにあるのではない。この土地の農業用水路は古くから集落の生活に密接に関わる用水として使われてきた(そのことがこの地の水利問題を複雑にしていた大きな要因でもあった)。水路の水は煮炊きや洗い物、防火や消雪にも欠かせず、水路の洗い場は集落の社交場でもあった。人は湧水池や堰、底樋の傍らに社や鳥居を造り、水神様として祀ってきた。

あるいは、この地の水路には生態学者が驚くほど魚や水生動物が多く棲んでいる。時に魚影をなして水路の中を鋭く走る川魚の群れを見る。淡水二枚貝やタナゴ類の共生など学問的に貴重な例も多く報告されている。当事業では専門家によるアドバイザーや委員会も開催して、ことのほか環境には配慮してきた。


そして何よりも水のある風景は、生活に潤い、安らぎ、情緒をもたらす。こうした集落で育つ子供たちは、どれほどの恩恵を受けているか計り知れないであろう。
当事業では、こうした水路の様々な機能を維持増進するため「地域用水機能維持増進事業」という施策を導入し、土地改良区とも協力して住民主体の地域づくりのお手伝いもしてきた。地域の熱意は想像以上であった。

湖北独特の風物であった畦畔木は圃場整備によって姿を消したが、この地の文化は高い。また近いうちに新たな風景が出来上がるであろう。

icon国営新湖北土地改良事業の概要


簡単ながら、当事業の概要を挙げておく。詳しい内容については事業パンフレットをご覧いただきたい。

■事業の背景

・営農形態の変化による用水量の増加

・環境的配慮からの余呉湖利用の抑制

・水路や主要水利施設の老朽化

・これらに伴なう管理費や労力の増大


■事業区域

・長浜市………1,706ha

・虎姫町………417ha

・湖北町………1,114ha

・高月町………1,085ha

・木之本町………274ha

・余呉町………3ha

計………4,599ha


■主要工事

・余呉湖第二補給揚水機の増設

・余呉川頭首工、高時川頭首工の改修

・田根東、田根北、大依、上山田揚水機の 改修

・幹線五km、支線一四km、末端水路九七kmの改修


■事業期間

・一期工事 平成10~19年度

・二期工事 平成11~21年度


icon次世代社会への礎


以上、粗々とこの地の農の歴史を振り返ってきた。むろん、この先も歴史は続く。すべてが解決したわけでもない。

今、世界では人類が誕生して以来の大変な危機を迎えているとも言われている。地球環境の急激な悪化、温暖化に伴なう水不足、そして世界的な食料危機…。

日本は食料の60%を外国に頼っている。しかし、外国の農地がどんどん劣化する一方で、中国、インドなどの経済発展が食料需給を逼迫し続けている。国連が警告するように世界の水不足はこれからも深刻化していくであろう。頼れるのは自国の農地資源だけである。

そして、この平野の汲めども尽きぬ水資源は何にも勝る資産である。これらを次世代に継承してゆくことこそ、最も確かな未来への礎になるのではなかろうか。

icon幻の湖北総合開発計画


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生態系に配慮して整備した水路
(黒田地区)
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村づくり委員会の様子
(北池地区)
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地区内で活用されている洗い場
(黒田地区)
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せせらぎ水路・ポケットパーク
(北池地区)

国営事業と併行して湖北土地改良区による地域用水機能維持増進事業を行い、地域用水による村づくりについて意識啓発や組織・活動支援(ソフト対策)、用水の景観・生態系保全、親水、生活、防火、消雪などの機能増進(ハード整備)を行った。

この取組みで注目すべきことは、計画段階から各集落住民で構成する「村づくり委員会」が集落を見て歩き、現状や課題を把握、集落や地域用水の昔、今、未来について話し合い、専門家のアドバイスも受けながら整備の方向を考えたこと、そして、こうした過程そのものが各集落の活性化に繋がったことである。

木之本町黒田地区では、「田んぼの学校」活動で滋賀県のレッドデータブックの希少生物が見つかったため、生態系保全などに配慮した水路整備が議論され、生態系配慮型、石積み(自然)型など、区間ごとの特性に応じた整備内容が盛り込まれた。工事の際には、住民や子供も参加し、二枚貝の引越し作戦が行われている。

長浜市北池地区では、石積み水路が老朽化し、景観も水路機能も低下していることが課題であった。専門家を招いたワークショップは計6回、子供からお年寄りまで集落のほとんどが参加し、景観や生活用水、生態系に配慮した整備方針が決まった。神社前の水路は既存の石積みを活かし、また、集落内には、せせらぎ水路とポケットパークを整備、水生植物や湧水が再生され、洗い場も復活している。


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