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01

八編のエピソードからなるこの映画は、核爆発という文明の終りを描いた直後、一転して最終話、美しい水車村のシーンになる。そして、電気も石油もないこの村で生きてきた老人に、真の人間のあるべき暮らしを語らせている。おそらくは、世界的に著名なこの監督が人類に残したかったメッセージであろう。


その撮影場所が安曇野。……スクリーンから溢れそうな川が、”花見[けみ]“より流れ出る蓼川[たてかわ]と前述した万水川[よろずいがわ]である。全国一の規模と生産量を誇る安曇野のわさび田も、1日70トンも涌き出るというこの湧水を利用したものである。「安曇のわさび田湧水群」として環境庁の名水百選に選ばれ、「水の郷」として国土庁からも認定されている。


また、この地はどういうわけか道祖神[どうそじん]が多い。それも、仲睦まじい男女の双体神[そうたいしん]。江戸中期から明治中期までかけて造られたものという。男女が同じ竿に洗濯物を乾すのさえ憚[はばか]られた時代に、手を握り合い、肩を抱き合う像を石に刻んで四辻に立てるという安曇野人のおおらかさ。時代の抑圧[よくあつ]をものともせぬ誇り高き農民達の生への謳歌[おうか]。その風雅かつ質朴[しつぼく]な情味。


この地の空には、まだ沢山の鳶[とび]が舞っており、湧水地にはカジカもいる。

深沢というところには、希少種であるオオルリシジミという蝶も生息している。


北アルプス、わさび田、多種多彩な美術館や博物館、コハクチョウ、温泉郷……。

安曇野の観光資産は多い。


しかし、真の遺産とは何であろうか。


02

人々が農地を育てた分だけ、人々はその農地によって育てられるという。


いかに社会が変化しようが、幾万という先人が築き上げ、また多く優れた人々を育ててきた安曇野の、この類いまれなる水土を守ることこそ、私たちの時代の責務ではなかろうか。


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