福岡県:矢部川水系

迫田

 矢部村の字図(アザズ)を開いて、何々ノ迫と「迫」がつく字(アザ)を探してみると、長迫・桂迫・ウソノ迫・タチメノ迫・ヒイ迫・ヲオシノ迫・浦迫・薮迫・田ノ迫・倉迫・蘭田迫・舟迫・下迫・迫田・迫頭・コヲヤ迫・堤迫田・後ノ迫・中迫・池ノ迫・漆ノ迫・黍ノ迫・竹ノ迫・扇迫など24ヶ所の字を見いだすことができる。
 何々ノ迫と「迫」がつく場所は概ね湧水地帯である。なかでも、田ノ迫や蘭田迫・迫田などは、田圃の用水に湧水が使われているところであろうと、字図と地勢図をもとに訪ねてみたのだが、棚田の面影を残してはいるものの、減反によってすでに原野に戻ってしまっていた。
 かつて、筑後川の上流域、熊本県南小国の黒川地区を歩いた折、字倉迫で見かけた田は、棚田の最上段の田の脇から湧き出す冷たい水を馬蹄形の水路に導き、少しでも用水を温める工夫が凝らされていた。もっとも、別の迫では田の中から無数に水が湧きだす田もあって、苗は植えられているものの生育が悪く、その田自体が温めの役割を担うことで、下段の田の収穫を支える仕組みになっていた。もっとも、いかなる悪条件であろうとも収穫しなければならない高嶺山岳地帯に住む農民の悲願が温めの為の田に苗を植えさせていたのかも知れない。