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……これはいったいどういう風景なのか。

崖のような斜面に刻まれた無数の横縞。その中腹にへばりつく農家とおぼしき家々……。黒い縞模様はすべて石垣だという。積まれた石の数だけでも万を超すであろう。紛れもなく田畑である。

棚田というようなのどかな情景ではない。山村、農村という通常私たちが描く鄙びたイメージともかけ離れている。美しさというより、むしろ凄まじさに近い。

誰もがこういう風景を眼前にしたら言いようのない衝動が胸を突き上げるのではなかろうか。


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上写真:大見槍(おおみやり)
集落(高知県仁淀川町)
下写真:松尾集落(高知県仁淀川町)
上下とも『写真が語る仁淀村』
(発行 高知県仁淀村)より。
昭和30年代の写真と思われる。

03
世界遺産のマチュピチュ(ペルー)
この景観は、20世紀最大の考古学的発見と言われ世界遺産に登録された南米アンデスのマチュピチュ遺跡にも匹敵しうるであろう。マチュピチュとは、麓の川から400m上空にある断崖の山頂に築かれた空中都市。なぜこんな天界に造られたのか、なぜ滅んだのか、未だ解明されていない。観光写真などではあまり紹介されないが、目も眩むような絶壁の斜面には無数の段々畑が続いている。マチュピチュは15世紀の中ごろ建設され、100年足らずで滅んだらしい。

しかし、土佐の山奥にあるこれら集落群の成立はそれよりもはるかに古く、今も少なからずの人々が暮らしている。この地を訪ねれば、そこここに今もなおこれと同じ風景、もしくはその明瞭な痕跡を見ることができる。

今さら述べるまでもないことだが、日本では古代から近世にいたるまで、人の暮らし、食べ物、労働、税、行事や習慣、社会構造、文化、教育等々、あらゆるものが水田、つまり稲作文化を基軸として成立してきた。

しかし、ここで扱う事象はこの写真に見られるような、世界遺産とも比較しうる日本の山村の「もうひとつの農の財産」である。

とりあえず、しばらくはこの写真が語りかけてくる景色の真相を探ってみたい。

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