終章:100年の夢


01

幕末の動乱期、坂本竜馬の描いた夢の飛沫。竜馬自身、開拓にこれほど大きな困難が伴うとは想像だにしなかったことであろう。


そして、現在、ここまでこの地が美しい農村になっていることも。


倒されし笹は日を経て


起き上がる


倒せし雪は跡かたもなし


開拓者を支えた座右銘だという。


さて、100年を経て、倒せし雪は本当に消えてなくなったのか。


今、この地方で整備された畑5haをもらい受けても、はたして農業でやっていける人間が何人いるであろう。


作物の大半は輸入品との激しい競争にさらされている。気候も厳しい。農業にとって北海道が条件不利地域であることには今も昔も変わりようがない。


さらに、自然との共存という難しい課題も背負っている。


もしも、この地の農業がそれらの闘いに屈すれば、私たちは何万人という先人の血がにじんだこの地を失うことになる。内国移民という世界に類のない壮挙を手放すことになる。土地改良にかけた壮大な労力と費用も無に帰す。


夢は、即座に破れてしまうのである。


あるいは、ひょっとしたら、網走の100年に日本の農業の過去と未来が凝縮されているかもしれない。


いずれにせよ、彼等の不屈の闘いとこの北限の大地は、かけがいのない日本の資産に違いない。その資産を守る闘いは、もう開拓民ではなく、日本に生きる私たちひとりひとりの手にかかっているのである。


私たちも挑みつづけようではないか。


この北限の美しい大地と、そこを切り拓いた開拓者達の魂を、100年先の世まで残せるよう。そして、倒せし雪が、跡かたもなく消えてなくなるまで


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