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簡単ながら、両総用水の効果を挙げておく。

まず、佐原地区は洪水被害が著しく軽減されたことで、水稲作の安定、畑作の振興が図られ、県内有数の農業地帯に発展。さらに、平成8年度から17年度にかけて行われた経営体育成基盤整備事業では、利根川の浚渫土を水田に投入し、50cmの嵩上げが行われた。これにより、それまで地下水位が高すぎて無理であった水田の畑利用が可能となり、大豆や小麦も生産されるなど経営拡大も進んでいる。

九十九里平野の農業は、下図に示すように驚異的ともいうべき進展を見せた。そして、平成6年、千葉県の農業産出額は全国2位(野菜は1位)となり、その後もずっとトップクラスの座を維持し続けている。


満州にも見ない荒野と言われてから、わずか半世紀。現在の九十九里平野の姿を誰が予測しえただろうか。

水源に乏しい房総半島では、昭和40年代から急速に都市用水の需要が高まり、これに対応するため、両総用水の施設を活用して利根川の水を供給する構想が浮上する。


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房総導水路事業概要図

昭和46年、水資源開発公団(現水資源機構)により、房総導水路として、両総用水の施設の一部を改築・増強して共用し、工業用水・水道用水の建設事業が行われた。現役の農業用水に都市用水が入り込んで共用するのは日本初のケースであった。

水道用水は同52年、工業用水は61年から供用を開始。供給区域の拡大によって、年間約1億tを超える規模に増大している。


地域に絶大な貢献を果たしてきた両総用水も、事業の完了からすでに40年以上が経過。施設は著しく老朽化し、維持管理に多大な労力と費用を要するようになってきた。また、千葉県東方沖地震や中部沖地震、台風等の災害により、しばしば通水に支障をきたす状況が発生。地元から施設の機能復旧を含む新規事業の要請が出された。

さらに、開水路主体の用水系統では、広大な九十九里平野の隅々まで用水を行き渡らせることには限界があり、海沿いの地域を中心として、用水配分の不公平感が存在していた。

このため、農林水産省では、平成5年度から施設の改修・新設を行う新たな国営事業に着手している。


本事業の主な特徴は、

・幹線水路系の開水路をパイプライン化

・九十九里平野に東部幹線用水路を新設

・コンピューターを駆使した水管理施設の導入

・排水については水田の汎用化の基礎的条件を整備


これらの事業により、用水の安定供給と適切な配分、排水機能の維持向上、維持管理の合理化が可能となる。

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関連事業で整備された
農村公園(多古町)

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東部幹線用水路の施工
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南部幹線のパイプライン化

さて、急ぎ足ながら、上総・下総の農の歴史を辿ってきた。縄文海進、東国制覇、平将門、坂東武士、徳川幕府、分割統治、利根川東遷、港町佐原の繁栄、九十九里浜のイワシ漁。そして、舟運の衰退、新田開発の矛盾、水争い、水秩序の崩壊、あいつぐ干ばつ災害……。この用水には利根川の水とともに、これらの重い歴史が流れている。

水は太古より循環を繰り返してきたが、人の歴史は一回きり。この先、どんな未来が待っているか誰にも分からない。


現在、世界の食料状況をめぐっては、かつて経験したことのない変化が起きている。増え続ける世界人口と中国・インドなどの人口大国の経済発展が食料需要を大きく押し上げる一方、異常気象の頻発や砂漠化の進行などによる農地の縮小や、面積当たり作物収量の伸びの鈍化により、食料の需給は逼迫の度合いを増している。

我が国は食料の6割以上を海外から輸入している。これ以上依存度を高めれば、食料供給の不安定感がさらに高まることが予想されている。水田農業を機軸としている我が国にとって、水の確保は次世代社会においても極めて重要な課題となるのではなかろうか。


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国営両総農業水利事業(H5~) 事業概要図




 ※ページ上部イメージ写真 : 左:児童たちの稲刈り体験 右:関連事業で整備された農村公園(多古町)
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